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カクバリズムのNews

Till Yawuh 「Still Sounds」Review(text by imdkm)

2024.04.26

Till Yawuh,カクバリズム

今週4/24(水)に配信開始となったTill Yawuh 1st Album「Still Sounds」のimdkmさんによるレビューが公開。是非音源と合わせてお読みください!

慎ましく、密やかな新しい風――Till Yawuh『Still Sounds』について

text:imdkm

Till Yawuhとカクバリズムの出会いには、少し意表をつかれた。
 もともとビートメイカーとして活動していたTill Yawuhは、2021年ごろに活動に一区切りをつけ、自身のヴォーカルもフィーチャーした(DTMというよりは)「宅録」寄りのスタイルにシフト。ヴェイパーウェイヴ以降の感性からポップ・ミュージックを再解釈するネットレーベル・Local VisionsからリリースしたEP「何もないです」では、深いリバーブとディレイに浸された、ローファイなビートを軸としたけだるいドリーム・ポップを展開した。

 しかし、意外であると同時に、腑に落ちる部分も多かった。ジャズ、R&B、ヒップホップ、ハウス、インディ・ロック等々をビートメイカー的な雑食さで横断しつつ、ギターを抱える「宅録」的なセンスは、カクバリズムのもつ折衷性にフィットしている。
 カクバリズムからの最初のリリースとなった「To-ri」は、Sauce81のサポートを得てサウンドの厚みや明晰さが増すことで、気だるいヴォーカルやトリッキーなリズムの構成といったアイデアの魅力がいっそう光る作品だった。
 つづく今作『Still Sounds』にも、Sauce81が共同プロデュースで参加。Till Yawuhの新しい一歩をしめした「To-ri」の延長線上にありつつ、これまでの歩みを再度辿り直すような作品になっている。
 たとえば、リードトラックである「jamiefoxx(feat. 浅井杜人)」。Till Yawuhがビートメイカーとしてメンバーの作品に携わってきたコレクティヴ、DENYEN都市の浅井杜人をフィーチャリングしたこの曲は、これまでの作品のなかでも屈指のポップさを誇る。Till Yawuhらしいシニカルなけだるさそのままに、フックのキャッチーさは群を抜いている。空虚さをたたえた生活のなかに、モラトリアムの残滓をほのかなロマンティシズムと共に見出すふたりのリリックも、声色からしてメロディアスな味わいのある浅井杜人のヴォーカルもばっちりハマっている。

 また、アルバムの後半に3曲続くインストゥルメンタル曲では、綿貫雪やRhino kawara、cvelとのコラボレーションも聴くことができる。それぞれインディペンデントな活動を続けるほか、mosi-mosi、Local Visions、i75xsc3eといったインターネットレーベルからもリリースしている新進のアーティストたちだ。
 「The Spell(feat. 綿貫雪)」では、余白の多いTill Yawuhのビートのあいだに、綿貫雪のシグネチャーといえる不定形なサウンドがじんわりと浸ってゆく。2分ほどの小品ながら、コラボレーションならではのマジックをたしかに感じられる。他方、「Metro/Dreaming(feat. Rhino kawara & cvel)」は、冷ややかなピアノの響きがローファイなビートのうえを淡々と漂う前半から、徐々に躍動するメロディが浮き上がり、グリッチとカットアップがちりばめられたIDMへと展開していく、本作でも異色の質感をたたえた一曲だ。
 言ってみれば、ここ数年(特に新型コロナ禍以降だろうか?)でSoundCloudやBandcamp、ネットレーベル、あるいはSNSを通じてゆるやかに醸成されてきたアーティストたちのつながりの一端が、『Still Sounds』には封じ込められている。さらにいえば、それがカクバリズムという2000年代以降の日本のインディ・シーンで存在感を放ち続けてきたレーベルからリリースされていることには、やはり新鮮な驚きを覚える(その意味では、アルバムのアートワークを、美術史家/アーティストであり、ライターとしても精力的に活動する近藤銀河が手掛けていることにも驚いた)。
 もちろん、Till Yawuh自身のソングライティングとサウンドクラフトが魅力を放つアルバムであることは言うまでもない。
 気だるいグルーヴに、鋭いギターとシンセのアルペジオが絡むローファイなビートが印象的な「LTD」では、中盤、拍子をゆるやかに行き来してポリリズミックなゆらぎを漂わせるあたりに、技巧的なものへの傾倒をかわしながらもトリッキーなアイデアを組み込む巧みさが伺える。
 「PVC」は、ファンクとマスロックのあいだを縫い合わせるようなギターリフが牽引するナンバー。チープなドラムマシンのビートはリズミカルというよりもどこかメロディアスで、808のサブベースが素朴なアンサンブルを一気にカラフルに染める。終盤のテンポチェンジで編成はそのままに風景を変えるアイデアもきいている。
 アルバムリリースのアナウンスと同日に先行配信を開始したインストゥルメンタル「Sunbeams」は、ひとつひとつはシンプルなフレーズとサンプルが、レイヤーされていくにつれてあたたかく光りだすような、タイトルを体現する展開に耳を捉えられる。反復から高揚を巧みに生み出す、ビートメイカーとしてのTill Yawuhの一側面が浮かび上がる1曲だ。
 シニカルな眼差しのなかに親密さを漂わせるリリックもこのアーティストの「らしさ」をかたちづくる重要な側面だ。前半の「Mango Cookies」や「PVC」では倦怠感すら漂うクールさに裏打ちされていた言葉が、後半におさめられたスウィートなバラード「Two Drinks」では率直な親密さにあふれ、ラストの「Interstellar」では、クリストファー・ノーランの同名作を彷彿とさせるような、ロマンティックな想像力が飛躍していく流れが美しい。

 『Still Sounds』はとても慎ましく、密やかな響きに満ちたアルバムだ。一方で、見逃す/聞き逃すことができない瞬間やストーリーが作品の内外に散らばった濃密さも備えている。このアルバムをきっかけに、今後Till Yawuhがどのような歩みをたどっていくか。期待をこめたくなる一作だ。

【RELEASE INFO】

Till Yawuh
1st Album 「Still Sounds」

2024.4.24 Release
KAKU-196
Link: https://kakubarhythm.lnk.to/StillSounds

Track list

01. LTD
02. Mango Cookies ※4/17(水)〜先行配信開始
03. PVC
04. jamiefoxx(feat. 浅井杜人)
05. Chardonay Variations
06. Random Track Interlude
07. Amateur photography
08. Two Drinks
09. The Spell(feat. 綿貫雪)
10. Sunbeams ※4/10(水)〜先行配信開始
11. Metro/Dreaming(feat. Rhino kawara & cvel)
12. Interstellar

Credit
Produced by Till Yawuh, sauce81
Recorded by Till Yawuh

Mixed by Till Yawuh, sauce81
Mastered by Kentaro Kimura at Kimken Studio

Artwork Ginga Kondo

【PROFILE】

Till Yawuh

部屋にいる。東京都在住。2001年生のプロデューサー/SSW/DJ。
2022年にLocal Visionsより1st EP「何もないです」をリリースし反響を呼ぶ。
2023年にカクバリズムよりEP「To-ri」をリリース、2024年4月24日 1st Album「Still Sounds」をリリースする。


Till Yawuh 1st Album「Still Sounds」本日リリース!

2024.04.24

Till Yawuh,カクバリズム

昨年、カクバリズムよりEP『To-ri』をリリースした2001年生まれの新鋭ベッドルーム・プロデューサー/SSW “Till Yawuh”の記念すべき1st Album「Still Sounds」が本日4月24日にリリースとなりました!

前作EP同様、共同プロデューサー, ミキサーとして、国内外で活躍中のsauce81氏を迎え制作された、客演、共作曲含む全12曲のアルバム。ベッドルーム的な質感を保ちながらも、サウンドはよりブラッシュアップされ、彼の持つトラックメイカー / シンガーソングライターの絶妙な間を揺らぐオリジナリティが存分に発揮された渾身の作品に仕上がりました!

24.4.24_Still Sounds
https://kakubarhythm.lnk.to/StillSounds

先行Single「Sunbeams」、「Mango Cookies」、Album「Still Sounds」の一連のアートワークは近藤銀河が担当しております。

アルバムリリース日の4/24(水)には渋谷WWWで開催の「NEWWW vol.27」に出演、初となるバンドセットでのライブを披露する予定です。

是非ともご注目ください!

【RELEASE INFO】

Till Yawuh
1st Album 「Still Sounds」

2024.4.24 Release
KAKU-196
Link: https://kakubarhythm.lnk.to/StillSounds

Track list

01. LTD
02. Mango Cookies ※4/17(水)〜先行配信開始
03. PVC
04. jamiefoxx(feat. 浅井杜人)
05. Chardonay Variations
06. Random Track Interlude
07. Amateur photography
08. Two Drinks
09. The Spell(feat. 綿貫雪)
10. Sunbeams ※4/10(水)〜先行配信開始
11. Metro/Dreaming(feat. Rhino kawara & cvel)
12. Interstellar

Credit
Produced by Till Yawuh, sauce81
Recorded by Till Yawuh

Mixed by Till Yawuh, sauce81
Mastered by Kentaro Kimura at Kimken Studio

Artwork Ginga Kondo

【PROFILE】

Till Yawuh

部屋にいる。東京都在住。2001年生のプロデューサー/SSW/DJ。
2022年にLocal Visionsより1st EP「何もないです」をリリースし反響を呼ぶ。
2023年にカクバリズムよりEP「To-ri」をリリース、2024年4月24日 1st Album「Still Sounds」をリリースする。


Jin Ono 1st album 「The Light」LP盤リリース!

2024.04.23

カクバリズム

リズムボックス《Maestro Rhythm King》の太くザラついたグルーヴ、エレクトリック・ピアノ《Fender Rhodes》の淡く歪んだ煌びやかな響き、愛車《Pontiac Firebird》の荒々しく唸るエンジン音。アナログなマシン達が奏でる音色に魅了されし渡り鳥《Jin Ono》。

新人アーティストJin Onoの1st album「The Light」限定プレスのLP盤が明日4/24(水)発売となります!

音源の内容もさることながらLP盤の帯付き仕様、レコードの音質にもバッチリハマっている是非フィジカルで楽しんで頂きたい1枚に仕上がりました。お早めにお買い求めください!

LPの取り扱い店舗はコチラ

カクバリズム・デリバリー(オンライン)
Test & Tiny(東京)
Hawaii Record(大阪)
Hi-Fi Record Store(東京)
FLAKE RECORDS(大阪)
STEREO RECORDS(広島)
JETSET(東京・京都)
ディスクユニオン(各店)
CORNER SHOP(静岡)
WE NOD RECORDS(オンライン)
NEWTONE RECORDS(大阪)
FACT RECORDS(宮崎)
HMV(各店)
マザー・ムーン・ミュージック(松本)
ヤンガオ(名古屋)
Banguard Order(和歌山)

※上記以外の店舗での取り扱いに関してはお近くの店舗にお問い合わせください。
※日本国外での取り扱い、注文受付については現在準備を進めておりますので、追ってアナウンスさせて頂きます。

《RELEASE INFO》

Jin Ono 『The Light』

Streaming Link: https://kakubarhythm.lnk.to/TheLight

限定盤Vinyl(33RPM LP, オビ・インサート付属)
2024.4.24 Release
Price: ¥3960(tax in)

Label: KAKUBARHYTHM

Side A
1. I Want You Tonight アイ・ウォント・ユー・トゥナイト
2. Bad Dream バッド・ドリーム
3. Morning Shuffle モーニング・シャッフル
4. Say Goodbye セイ・グッドバイ
5. Lingering On リンガリング・オン

Side B
6. Afternoon Jam アフタヌーン・ジャム
7. Kaze no Shirase 風の報せ
8. The Light ザ・ライト
9. Evening Swing イブニング・スウィング
10. My Muse マイ・ミューズ

Credits

All Songs Written, Arranged, Recorded & Produced by Jin Ono

Musician Credits:
Vocals, Rhodes Piano, ARP Solina String Ensemble, Vocoder, Drums, Shakers, Chimes and Maestro Rhythm King MKII played by Jin Ono on All Songs Except For:

Bass by James Gonda on: I Want You Tonight, Bad Dream, Say Goodbye, Lingering On, Kaze no Shirase, The Light, My Muse

Guitar by Yoji Jackson on: I Want You Tonight, Bad Dream, My Muse

Drums by Kushina Kaunis on: Say Goodbye, Lingering On, My Muse

Mixed by Ben Tapes (studio MSR)
Mastered by Kentaro Kimura (KIMKEN STUDIO)

Illustrations by Tomoyuki Yanagi
Design Mechanics by Stsk Ltd.

【PROFILE】
リズムボックス《Maestro Rhythm King》の太くザラついたグルーヴ、エレクトリック・ピアノ《Fender Rhodes》の淡く歪んだ煌びやかな響き、愛車《Pontiac Firebird》の荒々しく唸るエンジン音。アナログなマシン達が奏でる音色に魅了されし渡り鳥《Jin Ono》。

Instagram: https://www.instagram.com/jin_ono_jin/



Till Yawuh 1st Album「Still Sounds」 4/24(水)リリース決定! 本日4/10(水)より先行Sg「Sunbeams」配信開始!

2024.04.10

Till Yawuh,カクバリズム

昨年、カクバリズムよりEP『To-ri』をリリースした2001年生まれの新鋭ベッドルーム・プロデューサー/SSW “Till Yawuh”の記念すべき1st Album「Still Sounds」が4月24日にリリース決定!

前作EP同様、共同プロデューサー, ミキサーとして、国内外で活躍中のsauce81氏を迎え制作された、客演、共作曲含む全12曲のアルバム。ベッドルーム的な質感を保ちながらも、サウンドはよりブラッシュアップされ、彼の持つトラックメイカー / シンガーソングライターの絶妙な間を揺らぐオリジナリティが存分に発揮された渾身の作品に仕上がりました!

アルバム「Still Sounds」より先行シングルとしてインストトラック「Sunbeams」が本日より配信開始。(アルバム全12曲中3曲がインストトラック)

24.04.10_Sunbeams
https://kakubarhythm.lnk.to/Sunbeams

24.04.17_Mango Cookies
https://kakubarhythm.lnk.to/MangoCookies

24.4.24_Still Sounds
https://kakubarhythm.lnk.to/StillSounds

本日配信開始のSingle「Sunbeams」、来週4/17(水)配信開始のSingle「Mango Cookies」、4/24(水)配信開始のAlbum「Still Sounds」の一連のアートワークは近藤銀河が担当しております。

アルバムリリース日の4/24(水)には渋谷WWWで開催の「NEWWW vol.27」に出演、初となるバンドセットでのライブを披露する予定です。是非ともご注目ください!

【RELEASE INFO】

Till Yawuh
1st Album 「Still Sounds」

2024.4.24 Release
KAKU-196
Link: https://kakubarhythm.lnk.to/StillSounds

Track list

01. LTD
02. Mango Cookies ※4/17(水)〜先行配信開始
03. PVC
04. jamiefoxx(feat. 浅井杜人)
05. Chardonay Variations
06. Random Track Interlude
07. Amateur photography
08. Two Drinks
09. The Spell(feat. 綿貫雪)
10. Sunbeams ※4/10(水)〜先行配信開始
11. Metro/Dreaming(feat. Rhino kawara & cvel)
12. Interstellar

Credit
Produced by Till Yawuh, sauce81
Recorded by Till Yawuh

Mixed by Till Yawuh, sauce81
Mastered by Kentaro Kimura at Kimken Studio

Artwork Ginga Kondo

【PROFILE】

Till Yawuh

部屋にいる。東京都在住。2001年生のプロデューサー/SSW/DJ。
2022年にLocal Visionsより1st EP「何もないです」をリリースし反響を呼ぶ。
2023年にカクバリズムよりEP「To-ri」をリリース、2024年4月24日 1st Album「Still Sounds」をリリースする。


若手ヒップホップアーティスト”mindboi” tofubeatsプロデュース楽曲「Hope」のMVを公開!!

2024.03.20

カクバリズム,その他

本日、3/20(水)tofubeatsプロデュースで最新作「Hope」をカクバリズムからリリースしたmindboi。
最新シングル「Hope」のMVが3/20(水)18:00〜 YouTubeにて公開されました!

本作は仲原逹彦がディレクターを務めた一作。
自身の波乱万丈の半生を赤裸々に綴ったリリックを映像に落とし込み、mindboi本人に馴染みのある場所を辿ることで、まさに彼の現在から過去を追体験するような作品となっています。

mindboiの半生を聞いたイルリメが作詞プロデュースとして参加した、本作のリリックと合わせてご覧いただきたい一作です!

****
・RELEASE INFO

mindboi – “Hope”

Produced, mixed by tofubeats
Lyrics by mindboi
Lyrics produced by イルリメ
Mastered by 得能直也

・各種配信サイトhttps://kakubarhythm.lnk.to/mindboi_Hope

◼︎“mindboi” LINK
-Instagram-https://www.instagram.com/mindboi
-X(Twitter)-https://twitter.com/mindboi
-TikTok- https://www.tiktok.com/@mindboi?_t=8k…



Jin Ono 「The Light」Review(text by 高橋芳朗)

2024.03.15

カクバリズム

今週3/13(水)に配信開始となったJin Ono 1st Album「The Light」の高橋芳朗さんによるレビューが公開。是非音源と合わせてお読みください!

文:高橋芳朗

お気に入りのコンピレーションアルバムは、と問われたときに真っ先に挙げるタイトルがある。シカゴのレーベル、チョコレート・インダストリーズが2012年にリリースした『Personal Space: Electronic Soul 1974-1984』。プリセット音源のアナログなビートがトレードマークの電子楽器、リズムボックスを使った宅録ソウル/ファンクのレアトラック集だ。

 この『Personal Space』についてはリリース当時、坂本慎太郎が「こんなコンピレーションがあればいいと思っていた」とコメントを寄せていたが、きっと彼と同じような感慨を抱いた好事家は少なくなかっただろう。というのも、ドライで無機質なリズムを淡々と刻み続けるリズムボックスのあの唯一無二のグルーヴを、まとまったかたちで堪能できるブラックミュージック作品は決して多くはないからだ。

 筆頭にくるのは、リズムボックスを使ったソウル/ファンクの先駆にして決定打、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの『There’s a Riot Goin’ On』(1971年)。そして、全編リズムボックスとオルガンのみの演奏で歌うティミー・トーマス『Why Cant’t We Live Together』(1972年)。次いでリトル・ビーヴァー『Party Down』、シュギー・オーティス『Inspiration Information』(共に1974年)などが思い浮かぶが、一般的にクラシックとして語り継がれているのはこの程度だろう。

 リズムボックスをフィーチャーした優れたソウル/ファンク作品はかくも希少なものなのだが、その魅力を見事に落とし込んだアルバムがまさか現代の日本で生み出されることになろうとは予想だにしなかった。Jin Onoのファーストアルバム、『The Light』だ。

 Jin Onoは2021年12月、カクバリズムからリリースされたカセットテープ限定のコンピレーション『SUPER GOOD TAPE 2021 (AUTUMN)』に「Say Goodbye (Demo)」を提供している。今回の『The Light』は、その際に彼がレーベルに送ったデモ音源が制作のきっかけになっているそうだ。

 驚かれるかもしれないが、Jin Onoについてわかっていることは現状これだけしかない。本人の意向もあって、彼の詳細なプロフィールは一切明かされていないのだ。このご時世、なにかしらの情報は転がっているだろうとGoogleの検索窓に彼の名前を打ち込んでみようかとも考えたが、ちょうど再生ボタンを押した『The Light』の一曲目、「I Want You Tonight」が始まってすぐに手を止めた。まずは、この音に耽溺しておきたい。イントロの「鳴り」を耳にして直感的にそう悟ったからだ。

 ここにはまちがいなく、リズムボックスを駆使したソウルミュージックからしか得られない快楽や美意識がある。スライ・ストーンやティミー・トーマスが愛用していた名機「Maestro Rhythm King MRK-2」(リズムボックスを大々的に取り入れたニコラス・ペイトンの2020年のEP『Maestro Rhythm King』のタイトルはもちろんここから拝借したものだ)のミニマリスティックなリズムが放つ緊張感とクールネス。淡く揺らめくフェンダーローズと、音の雫が滴り落ちるようなギターが描き出すメロウネス。内省的な憂いを帯びる、Jin Onoの歌い口の狂おしいまでのビタースウィートネス。リトル・ビーヴァーの「Party Down」や「Let’s Stick Together」で聴くことができた陶酔的な音世界が、明確な意志と敬意をもって継承されていることに静かな感動が湧き上がる。

 「I Want You Tonight」からシームレスで続く「Bad Dream」では一転、ブルージーな陰を引きずる苦み走ったファンクを繰り広げる。レイジーなヴォーカルの振る舞いも含め、このメランコリックな酩酊感はまぎれもなく「Luv N’ Haight」や「Family Affair」に象徴されるスライ&ザ・ファミリー・ストーン『There’s a Riot Goin’ On』のモードだ。オープニングの2曲でソウル/ファンク史におけるリズムボックスの原点を突きつけてくる『The Light』の構成からは、「Maestro Rhythm King」の使い手としてのJin Onoの矜持を見る思いがする。それは、18種に及ぶプリセットリズムのヴァリエーションを朝昼晩の気分に沿って使い分けた3曲のインタールード(「Morning Shuffle」「Afternoon Jam」「Evening Swing」)の存在にしても同様だ。

 この冒頭の2曲を踏まえて、『The Light』は中盤に差し掛かるとリズムボックスの新たな可能性に踏み込んでいく。それは、近年のシティポップリヴァイヴァルやヴィンテージソウルのムーヴメントに対するJin Ono流のレスポンスと言ってもいいかもしれない。

 それぞれ南佳孝と細野晴臣をニューソウルのマナーを通して再解釈したような「Say Goodbye」と「Kaze no Shirase」。ブランドン・コールマン『Resistance』(2018年)のアプローチとも重なり合う、ヴォコーダーを導入したジャジーなコズミックソウル「The Light」。ティミー・トーマス「Why Cant’t We Live Together」をサンプリングしたドレイクの「Hotline Bling」(2015年)がそうであったように、これらの楽曲は「Maestro Rhythm King」の音像が都市生活者の哀愁と憂鬱に寄り添う現代のアーバンブルースとして機能することの証左になるだろう。そんな観点から接してみれば、ドリーミーにたゆたう「Lingering On」や「My Muse」の響き方も微妙に変わってくるはずだ。『The Light』はノスタルジーを心地よく刺激してくるが、単に懐古趣味として片付けられない今日性も確実に持ち合わせている。

 そして、リズムボックスに彩られた数々のソウル/ファンクの名作がそうであるように、この『The Light』もすでにカルトな魅力をまとっている。それはJin Onoのミステリアスな佇まいによってもたらされているところも多分にあるが、本質的にはリズムボックスという魔性のガジェットがはらむ宿命なのだと思う。果たして、『The Light』はどのような運命を辿ることになるのだろうか。

《RELEASE INFO》

Jin Ono 『The Light』

2024. 3.13 Release
Streaming Link: https://kakubarhythm.lnk.to/TheLight

限定盤Vinyl(33RPM LP, オビ・インサート付属)
2024.4.24 Release
Price: ¥3960(tax in)

Label: KAKUBARHYTHM

tracklist

1. I Want You Tonight アイ・ウォント・ユー・トゥナイト
2. Bad Dream バッド・ドリーム
3. Morning Shuffle モーニング・シャッフル
4. Say Goodbye セイ・グッドバイ
5. Lingering On リンガリング・オン
6. Afternoon Jam アフタヌーン・ジャム
7. Kaze no Shirase 風の報せ
8. The Light ザ・ライト
9. Evening Swing イブニング・スウィング
10. My Muse マイ・ミューズ

〈Vinyl〉

Side A
1. I Want You Tonight アイ・ウォント・ユー・トゥナイト
2. Bad Dream バッド・ドリーム
3. Morning Shuffle モーニング・シャッフル
4. Say Goodbye セイ・グッドバイ
5. Lingering On リンガリング・オン

Side B
6. Afternoon Jam アフタヌーン・ジャム
7. Kaze no Shirase 風の報せ
8. The Light ザ・ライト
9. Evening Swing イブニング・スウィング
10. My Muse マイ・ミューズ

Credits

All Songs Written, Arranged, Recorded & Produced by Jin Ono

Musician Credits:
Vocals, Rhodes Piano, ARP Solina String Ensemble, Vocoder, Drums, Shakers, Chimes and Maestro Rhythm King MKII played by Jin Ono on All Songs Except For:

Bass by James Gonda on: I Want You Tonight, Bad Dream, Say Goodbye, Lingering On, Kaze no Shirase, The Light, My Muse

Guitar by Yoji Jackson on: I Want You Tonight, Bad Dream, My Muse

Drums by Kushina Kaunis on: Say Goodbye, Lingering On, My Muse

Mixed by Ben Tapes (studio MSR)
Mastered by Kentaro Kimura (KIMKEN STUDIO)

Illustrations by Tomoyuki Yanagi
Design Mechanics by Stsk Ltd.

【PROFILE】
リズムボックス《Mastro Rhythm King》の太くザラついたグルーヴ、エレクトリック・ピアノ《Fender Rhodes》の淡く歪んだ煌びやかな響き、愛車《Pontiac Firebird》の荒々しく唸るエンジン音。アナログなマシン達が奏でる音色に魅了されし渡り鳥《Jin Ono》。

Instagram: https://www.instagram.com/jin_ono_jin/


昨年で発売から50年。 世界各地で愛聴され続けている細野晴臣氏の1st「HOSONO HOUSE」 素晴らしいアーティスト、バンドが カバーしたアルバム 「HOSONO HOUSE COVERS」 Mac Demarcoに続く第2弾! 安部勇磨による「冬越え」が本日配信スタート!

2024.03.13

カクバリズム


2024年3月13日(水)Digital Release
安部勇磨「冬越え」配信ジャケット

artwork by Nick Dahlen

本日配信スタートの第2弾リリースを担当した安部勇磨。USのレーベルからリリースを重ね、今年2月には北米11都市のツアーも成功させ着実に海外ファンを増やしています。


第2弾リリースを担当した安部勇磨

カバー「冬越え」はコーラスに藤原さくらや優河など総勢10名のゲストミュージシャンが参加し、素晴らしいバンドアンサンブルを奏でています。

また、安部勇磨「冬越え」の配信ジャケットのアートワークはUS・ミネアポリスを拠点に活動する世界的にも注目されている<Nick Dahlen>(ニック・ダーレン)が担当してくれました。今後も世界各地の素敵なイラストレーター、デザイナーが担当していきますのでお楽しみに。

安部勇磨 comment
「細野さんが聴いたらなんて言うかな、そんなことを考えながら冬越えをカバーしました。録音してる時はタイムスリップしてるような気分でした。特別な体験でした。」

細野晴臣が1973年に発売した1st album「HOSONO HOUSE」。今もなお日本のみならず世界各地で大事に聴かれ続けているポップミュージック史に残る1枚であります。例えばグラミー賞で最優秀アルバム賞を受賞したハリー・スタイルズの「ハリーズ ハウス」は、「HOSONO HOUSE」から着想した作品でした。これは世界各地の若い世代にも浸透、評価されていることを表しています。

そんな名作の発売から50年を記念したカバーアルバム「HOSONO HOUSE COVERS」。日本のみならず世界各地より細野晴臣を敬愛するとてつもなくクールでホットなアーティスト、バンドの皆さんが素晴らしいカバーを提供してくれました。今もなお渾然と輝き続ける「HOSONO HOUSE」の魅力にまた新しい側面を与えてくれるカバーアルバムになっています。

【RELEASE INFO】

【第2弾リリース】

・アーティスト名: 安部勇磨 / Yuma Abe
・曲名: 冬越え / Fuyu Goe
・配信開始: 2024年3月13日(水)
・発売レーベル: Stones Throw Records, KAKUBARHYTHM, Bayon Production, medium

配信リンク: https://HOSONOHOUSE.lnk.to/YumaAbe
特設ページ: https://hosonohouse-cover.com

web: https://hosonoharuomi.jp
Instagram: https://www.instagram.com/haruomihosono_information/
Twitter : https://twitter.com/hosonoharuomi_

「HOSONO HOUSE COVERS」

<参加アーティスト>
Mac DeMarco
Sam Gendel
John Carroll Kirby feat. The Mizuhara Sisters (Kiko & Yuka)
Cornelius
矢野顕子
安部勇磨
mei ehara
くくく (原田郁子&角銅真美)
Pearl & The Oysters
Jerry Paper

and more!!!!


新人アーティスト Jin Ono 1st album 「The Light」 配信&限定LPでリリース決定! 先行Sg「My Muse」本日より配信開始!

2024.02.28

カクバリズム

リズムボックス《Maestro Rhythm King》の太くザラついたグルーヴ、エレクトリック・ピアノ《Fender Rhodes》の淡く歪んだ煌びやかな響き、愛車《Pontiac Firebird》の荒々しく唸るエンジン音。アナログなマシン達が奏でる音色に魅了されし渡り鳥《Jin Ono》。

新人アーティストJin Onoの1st album「The Light」が2024年3月13日に配信リリース決定しました。
アルバム「The Light」からの先行シングル「My Muse」が本日2/28(水)より配信開始となりました。限定プレスのLP盤は4/24(水)に発売を予定しております。

2021年12月にカクバリズムよりカセットテープでリリースされたV.A「SUPER GOOD TAPE 2021(AUTUMN)」に収録された「Say Goodbye(demo)」のアルバムver.を含む全10曲を収録。

V.A「SUPER GOOD TAPE 2021(AUTUMN)」カセットリリースの際にInstagramのDMでJin Onoから送られてきたデモ音源がきっかけとなり今回のアルバムリリースまで漕ぎ着けました。本人の意向もあり、アーティストプロフィール以上の詳しい情報はありませんが、完成した音源の息を呑むクオリティに今作のリリースを決定しました。是非ご一聴ください!

《RELEASE INFO》

Jin Ono 『The Light』

先行Single 「My Muse」
2024. 2.28 Release
Streaming Link: https://kakubarhythm.lnk.to/MyMuse

2024. 3.13 Release
Streaming Link: https://kakubarhythm.lnk.to/TheLight

限定盤Vinyl(33RPM LP, オビ・インサート付属)
2024.4.24 Release
Price: ¥3960(tax in)

Label: KAKUBARHYTHM

tracklist

1. I Want You Tonight アイ・ウォント・ユー・トゥナイト
2. Bad Dream バッド・ドリーム
3. Morning Shuffle モーニング・シャッフル
4. Say Goodbye セイ・グッドバイ
5. Lingering On リンガリング・オン
6. Afternoon Jam アフタヌーン・ジャム
7. Kaze no Shirase 風の報せ
8. The Light ザ・ライト
9. Evening Swing イブニング・スウィング
10. My Muse マイ・ミューズ

〈Vinyl〉

Side A
1. I Want You Tonight アイ・ウォント・ユー・トゥナイト
2. Bad Dream バッド・ドリーム
3. Morning Shuffle モーニング・シャッフル
4. Say Goodbye セイ・グッドバイ
5. Lingering On リンガリング・オン

Side B
6. Afternoon Jam アフタヌーン・ジャム
7. Kaze no Shirase 風の報せ
8. The Light ザ・ライト
9. Evening Swing イブニング・スウィング
10. My Muse マイ・ミューズ

Credits

All Songs Written, Arranged, Recorded & Produced by Jin Ono

Musician Credits:
Vocals, Rhodes Piano, ARP Solina String Ensemble, Vocoder, Drums, Shakers, Chimes and Maestro Rhythm King MKII played by Jin Ono on All Songs Except For:

Bass by James Gonda on: I Want You Tonight, Bad Dream, Say Goodbye, Lingering On, Kaze no Shirase, The Light, My Muse

Guitar by Yoji Jackson on: I Want You Tonight, Bad Dream, My Muse

Drums by Kushina Kaunis on: Say Goodbye, Lingering On, My Muse

Mixed by Ben Tapes (studio MSR)
Mastered by Kentaro Kimura (KIMKEN STUDIO)

Illustrations by Tomoyuki Yanagi
Design Mechanics by Stsk Ltd.

【PROFILE】
リズムボックス《Maestro Rhythm King》の太くザラついたグルーヴ、エレクトリック・ピアノ《Fender Rhodes》の淡く歪んだ煌びやかな響き、愛車《Pontiac Firebird》の荒々しく唸るエンジン音。アナログなマシン達が奏でる音色に魅了されし渡り鳥《Jin Ono》。

Instagram: https://www.instagram.com/jin_ono_jin/


VIDEOTAPEMUSIC × YOUR SONG IS GOOD 新代田FEVER15周年記念イベント開催決定!

2024.02.22

カクバリズム,YOUR SONG IS GOOD,VIDEOTAPEMUSIC


KAKUBARHYTHM presents
FEVER 15th Anniversary “New Memorial Hits”
 

新代田FEVERの15周年を記念したカクバリズム主催イベントの開催が決定しました!
 
3/20(水)春分の日にカクバリズムが誇るライブアクト、YOUR SONG IS GOODとVIDEOTAPEMUSICのツーマンで新代田FEVERの15周年を盛大に祝います!


YOUR SONG IS GOOD


VIDEOTAPEMUSIC

YOUR SONG IS GOODは2024年初のライブ、VIDEOTAPEMUSICはバンドセットでは今年初のライブ。この熱いツーマンをカクバリズム代表の角張渉がDJで幕間を盛り上げます。
 
チケットは明日2/23(金)よりe+、LivePocketで発売開始となります。是非ご来場ください!
 

【LIVE INFO】
 
KAKUBARHYTH presents
FEVER15th Anniversary “New Memorial Hits”

2024年3月20日(水・祝)

会場: 新代田FEVER
OPEN 17:00 / START 18:00
 
TICKET
前売 ¥4,500(税込/ドリンク代別)
 
チケット一般発売日: 2/23(金)10:00〜
 
・e+
https://eplus.jp/sf/detail/4053740001-P0030001

・LivePocket
https://t.livepocket.jp/e/fever-kakubarhythm
 
LIVE
YOUR SONG IS GOOD / VIDEOTAPEMUSIC(Band set)
 
DJ
角張渉(KAKUBARHYTHM)
 
INFO
新代田FEVER: 03-6304-7889(https://www.fever-popo.com/
 
主催 / 企画:カクバリズム


「HOSONO HOUSE COVER」第一弾!
Mac DeMarcoによる「僕は一寸」が配信スタート!

2024.02.21

カクバリズム

細野晴臣が1973年に発売した1st album「HOSONO HOUSE」。今もなお日本のみならず世界各地で大事に聴かれ続けているポップミュージック史に残る1枚であります。

そんな名作の発売から50年を記念したカバーアルバム「HOSONO HOUSE COVER」。
日本のみならず世界各地より細野晴臣を敬愛するとてつもなくクールでホットなアーティスト、バンドの皆さんが素晴らしいカバーを提供してくれております。今もなお渾然と輝き続ける「HOSONO HOUSE」の魅力にまた新しい側面を与えてくれるカバーアルバムになっております。

また、今作のリリースはこの企画の趣旨に共鳴したアメリカでも屈指の人気と信頼を誇るインディペンデント・レーベル STONES THROW RECORDSと、今作の音源制作のプロデュースを担当しているKAKUBARHYTHM, BAYON PRODUCTION, mediumがパートナーシップを結び、全世界でのリリースとなります。

本日より第一弾リリースのMac DeMarcoによる「僕は一寸」のカバーが配信開始となりました。このプロジェクトのカバー音源は以降も順次配信開始を予定しております。

担当したMac DeMarcoは「細野晴臣は私のヒーローであり、彼の音楽はすべて大好きで、私は常に彼に夢中であり、このコンピレーションに参加できることを光栄に思います。このカバーは、2023年8月にパリのジョー・バードのゲストルームで録音しました。私の日本語の発音がひどくなければいいのですが。」とコメントしてくれています。

配信リンク:
https://hosonohouse.lnk.to/MacDeMarco

配信ジャケットのアートワークは世界でも人気の西村ツチカが担当しており、以降も様々なイラストレーター、デザイナーが担当していきます。

音源・アートワークともに素敵な方々に参加してもらっている本企画、引き続きご注目ください!!!

《RELEASE INFO》

「HOSONO HOUSE COVER」

<参加アーティスト>
Mac DeMarco
Sam Gendel
John Carroll Kirby feat. The Mizuhara Sisters (Kiko & Yuka)
Cornelius
矢野顕子
安部勇磨
mei ehara
くくく (原田郁子&角銅真実)
Pearl & The Oysters
Jerry Paper

and more!!!!

【第一弾リリース】
Mac DeMarco / マック デマルコ

僕は一寸 / BOKU WA CHOTTO

配信開始日:
2024年2月21日〜

配信リンク:
https://hosonohouse.lnk.to/MacDeMarco

発売レーベル:
STONES THROW RECORDS / KAKUBARHYTHM / BAYON PRODUCTION / medium

特設ページ:
https://hosonohouse-cover.com