あだち麗三郎
あだち麗三郎

─今回のアルバムで、あだちくんが提供した曲が「VIVA! Milagro」。すでにsirafuくん、シンさんのインタビューでも「あの曲は大変だった」と話題になってるんですが、その張本人としての話からまず聞かせてください。そもそも、あだちくんは曲の最初のほうだけ作ってきて、「あとはみんなで」と言ったそうなんですが、それ本当ですか?

あだち まあ、そうですね。じっさいは、イントロとその次の歌のコード進行とメロディは作りました。あと間奏の「ボンボンボン~」ってとこも作ったかな。パーツをいくつか作って、それをメンバーにつなげてもらった感じでした。

─そのパーツもそれぞれ変わってるから、これを一曲にするのは大変だったのでは?

あだち 今までの片想いの感じじゃないコードの使いかたをしてるので難しかったというのあるかな。

─曲が仕上がるまでを総監督としてしっかりディレクションした、というわけではなく?

あだち ではないですね。

伴瀬朝彦(インタビューに同席) ずっとニヤニヤしながら見てたよね(笑)

あだち この曲のパーツを持っていったあとに、「あの曲はバラバラすぎて難しいからもうやめにして別の曲をつくろう」と思って、また違う曲を勝手に作ってて。ぼくが欠席した曲つくり会でできたものを聴いてみたら、うまく曲になりかけてたから、「じゃ、やっぱりやろう!」ということになりました(笑)

─じつは、片想いに向けて曲を書いたのは、初めてなんですよね。

あだち そうですね。今回のアルバムでは、みんなでそれぞれ曲を書くという話になったんです。だけど、そこからレコーディングが始まる日までそんなに時間もなくて。だったら、片想いは古い曲もいいのがいっぱいあるんだし、今回はそういうのを中心にして、次にサードを作るときはあらためてもっと時間を取って曲作りをしたらいいんじゃないかなと思ってました。

─結構タイトだったんですね。

あだち 2ヶ月もないくらいじゃなかったかな? チャレンジするのは賛成でしたけど、「大丈夫なのかな? 完成度の高い新曲ができるのかな?」って不安はちょっとあったんです。

─あだちくん的に、今回一番手応えがあった曲は?

あだち やっぱり「VIVA! Milagro」かな(笑)

─そりゃそうですよね、って感じです(笑)

あだち 難産でしたから。

─でも、ちゃんとできた。

あだち すごいですよね。聴いた人がどう感じるか、一番興味深い曲です。

─さっき、「古い曲もいいのがいっぱいある」と言ってましたけど、今回あだちくんは個人的には「ハピネス」を推してたそうですね。

あだち ああ、すごく推したわけじゃないですけど、「ハピネス」とか「東京フェアウェル」とかは入れていいんじゃないかと思いましたね。

─今回入った「フェノミナン」や「My Favorite Things」もそんなに最近はライヴではやってないし。こうやってアルバムに入ることで、またやるようになるんでしょうけどね。それこそ「ダメージルンバ」は片想いの初めてのライヴでもやってるくらい古い曲なんですけど、片想いの場合は、またライヴでひさびさにそういう曲をやっても不思議と古臭さがないんですよね。

あだち 昔の曲の重みみたいなのは、やっててありますけどね。メンバーみんなが曲に対して納得している感じというか。

─曲作り以外の面で、今回アルバムを作ってくうえで、あだちくんが提案したことってありますか?

あだち 自分的には結構あるんですよ。ぼくと伴ちゃんは音楽面の細かいところでちょこちょこそういう提案はしてるんです。歌詞とか、曲のコード進行とかじゃない部分の細かいところですけど。ホーン3人のこの音だけオクターブにするとか、コーラスは伴ちゃんが指示を出してるし、リズムのことはわりとぼくは言いますしね。

─細かいところかもしれないけど、そこがちゃんとしてないと成り立たない部分も大きい。

あだち そう思ってますけどね。

伴瀬 そこが冴えてないと、笑いも冴えないんですよ。

あだち たしかに、その辺がしっかりしてないとちゃんと笑えないというのはありますよね。

─そういう意味で、あだちくんが考える片想いの笑い、おもしろさの部分ってどういうものですか?

あだち ああ、こないだフジロックでワンダフルボーイズってバンドを見たんですけど、彼らは寸劇的なこととかもやってて、結構片想いに似てるなって思ってたんですよ。見てて思ったのは、バンド・メンバーはあんまり笑わないほうがいいのかな、ってことでした。笑わずにもっとショーとして突き詰めてみたらおもしろいのかなとか(笑)。

伴瀬 それを突き詰めるとカタオモロになりますけどね(笑)

─新作でいうと「片想インダDISCO」みたいな曲は、笑わずにおかしいことをするクールさみたいなものが保たれることで、ライヴでもよりかっこよくなる気がします。

あだち そこでゆるくなっちゃうのって、内輪ノリになるかならないかの微妙なところなんですよ。だから、ぼくとしては演奏はタイトにやっておきたいなという部分はあります。

─そう言いつつも、片想いってバンドの中に大ちゃん(大河原明子)とか、プロのミュージシャンとはまったく違ったスタンスなメンバーも普通にいるじゃないですか。一時期、大ちゃんが鹿児島で暮らしてて、あんまりライヴに参加できないときもあったけど、やっぱり不在のときってなんか違って聴こえるんですよね、不思議なことに。単にアンサンブルが変わるだけじゃなく、片想いとしてのバランスが変わっちゃうんです。

あだち ぼくの持論があって、メンバー選びが音楽の作曲よりも大事だと思っていて、それに著作権を与えてもいいんじゃないかなと思ってるんですよ。やっぱり人って大事なんだなと思いますよ。片想いはすごくそれが如実にでるバンドなんですよ。このメンバーでやれば何をやっても上手くいく、っていう(笑)。

─それこそ「VIVA! Milagro」なんて、この8人だからこそできた曲だって気がします。

あだち みんな、投げ出さなかったですもんね。作ったぼくがやめようとしてたのに(笑)。「みんなばらばらでもおもしろいな」っていうのが、片想いのみんなの中にはあるんじゃないかな。

─「Party Kills Me(パーティーに殺される!)」は、あだちくんはどう受け止めました?

あだち 最初にデモで聴いたときに、すごくいい曲だって思いました。歌詞の切り込み方がおもしろいし、あんまり他の人たちが言わないようなことを言ってる。ただ、この曲が自分たちにとってどういう意味になっていくのかはまだ飲み込めてないかな。これからライヴでやってくうえで変わっていく曲かもしれないし。

─じつは「踊る理由」も、そうだったんじゃないですか? 曲としての完成度は最初から高かったと思うけど、いきなりアンセム的に受け入れられたわけじゃないだろうし。やり続けていくうちにそうなったという。この『QUIERO V.I.P.』って、こうやって培われてきた片想いのおもしろさと、これから変わっていく片想いのおもしろさ、その両方を発見させてくれる作品だと思ってます。

あだち 「片想いがあってよかったな」って思ってるんですよ。去年はあんまり片想いをやってなくて、ひさびさに今年の頭ぐらいからレコーディングをやってましたけど、やっぱりいろいろな意味で安心できる。片想いって、思いついたアイデアことを安心して試せるんですよ。メンバーの許容範囲も広いし、ドラムに関していろいろ変えていっても良い反応がある。伴ちゃんとか、それにすぐ応えてくれるし。片想いはやり続けたいですね。片想いっておもしろいから。

伴瀬 試せる安心感っていうのは、わかる。ちょこちょこ2人で演奏中に遊んでるもんね。特に他のメンバーは気がつかないんだけど。

あだち 2人だけでこそっと話して曲の中で勝手にキメ作ったり。結構それが大事なフックになってたりするし。

伴瀬 えんちゃん(遠藤里美)なんかは気がついてこっちを見たりするんだけど。

あだち あとでみんなが気がついて、「じゃあこの曲はそういうふうに変えよう」みたいになっていったところもあるかな。

─とにかく、まだまだ片想いは変わっていけるし、ぜんぜんあたらしくておもしろいバンドだなと思いました。

あだち そうですね。新しくていい曲もたくさんつくれるし、いろんなチャレンジもできるんだって、今回のアルバムができたことによって証明されたから、次も早く出したいな。

伴瀬 また曲を持ち寄っていいんだったら、いっぱいありますよ。

─新作後は、ライヴもいくつか決まってるみたいだし、楽しみですね。

あだち ぼくも楽しみです。新譜の曲もやりたいし。

伴瀬 やるしかないですよ。アルバムに入れといて「できません!」はないですよ。

─「VIVA! Miraglo」もライヴでも聴いてみたいし。

伴瀬 あ、あれは無理だ!(笑) 何人要るのよ。

あだち ライヴ用にアレンジして、ちょっと変えなきゃいけないかも。まあ、片想いならできると思います!!

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