片岡シン
片岡シン

─片想いのアルバムを作りたくなるモチベーションって、シンさんとしてはどういうものですか?

シン sirafuも言ってたかもしれないけど、「忘れられてくんじゃないか?」っていう恐怖はあるんですよね。そもそもそこまで我々は大人気バンドってわけじゃない。でも、やはり存在を立たせるには音源がないと。ライヴでしかやってない曲もまだまだたくさんあるんで、それを知ってもらいたいというのありますね。

─セカンド・アルバムが出ると聞いて、「あの曲は入るのかな? どの曲が入るのかな?」っていろいろ想像してたんですけど、古い曲は結構意外なセレクトでした。

シン そうなんですよ。意外ですよね! 今はもう作っちゃったから、自分ではまったく違和感ないけど、たしかに意外なチョイスをしたかも。

─ライヴの定番になってる「V.I.P.」と「棒きれなどふりまわしてもしかたのないことでしょう」はともかく、正直「My Favorite Things」「ダメージルンバ」「フェノミナン」は、ここ何年かのあいだで1、2回ライヴで聴いたことある、ってくらいですね。

シン そうですよね。一枚目のアルバム出して、わりとお客さんが増えたけど、その人たちはほとんど知らない曲じゃないですかね。特に「ダメージルンバ」なんかは、めったに聴かないでしょうね。

─ホームページに出てる片想いのライヴ・データを見ると、初めてのライヴ(2004年)でやってますよね。

シン やってましたっけね。でも、この曲はあんまり成功した記憶がなくて。アルバムを作るにあたっても、うまくやれるかは結構不安でした。一枚目でやった曲はライヴで数を重ねてきた曲ばっかりだったけど、「ダメージルンバ」は自分の歌が固まってなかった。「どうやって歌ってたっけ?」っていう感じで(笑)。でも、今回の「ダメージルンバ」は、意外とうまく歌えたぞと思ってます。今までもそんなに回数は歌ってないかもしれないけど、一番うまく歌えたと思う。抑揚のつけかたがうまくいったというか。

─この曲はシンさんの作曲ですけど、今回推したのもシンさん?

シン 違うんですよ。ぼくはあんまり自分で自分の曲は推さない。「フェノミナン」もぼくの曲だけど、ぼくは推してない。

─そうなんですか。

シン 首脳会談で決まったんです。ぼくとsirafuのね(笑)。そのなかで「ダメージルンバ」も候補に出てきて、「なるほどな」と。あの曲って、初期の技量のなかった我々には超むずかしい曲だったんですよ。シンプルすぎて逆にむずかしかった。それが今ならちゃんとできるかもって、ちょっとワクワクしたんですよ。服部(将典/NRQ)くんがウッドベース弾いてくれるっていうしね。

─あと、sirafuくんにも言いましたけど、今回は新曲がかっこいい。それに付きますね。いきなり「片想インダDISCO」が超かっこいい! あれがスベったらすべてが台無しじゃないですか。

シン そうですよね! ぼくもあの曲がとにかくかっこよくなってよかった。

─あの曲でかっこよくも笑えて踊れることが、新作にとってのひとつの宣言になってるんです。sirafuくんも言ってたけど、『片想インダハウス』は、ある意味、10年間の名曲を集めたベスト盤で、今回の『QUIERO V.I.P.』には新曲が充実したオリジナル・アルバムという感覚がある。

シン うん、そう言われてしっくりきますね。このアルバム出して終わりじゃなくて、また次ができたらいいなって気持ちになれました。

─なりますよね。確かに、片想いはストックがまだいっぱいあるし、それでアルバムを作っていけるのかもしれないけど、ちゃんといい新曲ができるってことが未来もイメージさせてくれる。伴瀬くんの曲「感じ方」とか、あたらしい「すべてを」みたいで素晴らしいし。

シン そうなんです! おれたち、ちゃんとできる子なんです!(笑) アルバムを出すってのは、それが言いたいんですよね。自分たちのなかのムーヴメントとしては新曲を次々に出していきたいです。

─それぞれのメンバーが年齢も重ねているし、ライヴの本数も決して多くないし、自分たちのことで忙しくなったりもして、もっとおとなの関係っぽい付き合いになっていくのかなと思いきや、ここに来て、片想いのバンド感がまた増してきてる気もします。

シン そう! それは意外でしたね(笑)。全員が片想いを主戦場にしつつ主戦場になってないみたいなところはあったんですけど、今回はスタジオで曲を固めていく作業に結構時間を取ることができて、それが合宿感があってバンドのつながりが生まれたというか。ぼくが「そろそろ店(御谷湯)に戻りまーす」とか言って抜けちゃうとヴォーカルがいなくなるんだけど、その間にみんながホーンのアレンジを固めてたりね。

─で、シンさんが戻ってきたら、また曲が進化してたり。

シン 「え? こんなんなったの?」みたいなね。そういう楽しみはありました。

─今回、シンさん的に手応えがあったのはどの曲ですか?

シン 手応え自体はどの曲にもありましたけど、そうですね……、出来栄えとしては「片想インダDISCO」かな。

─おお、なるほど。

シン あの感じをレコーディングで作れたというのは、よかったですね。練習で固めていったものができたんじゃなくて、「やべえ、どうしよう?」みたいな状態だったから(笑)。何回も試行錯誤して録り直しましたね。3人で歌ってみたり、1人で歌ってみたり、イッシー入れてみたり。このままできねえんじゃねえかとも思ったし。いろいろやった末に「あ! これいいじゃん!」ってのができたから、ちょっと感動したんですよ。アルバムではどの曲も楽しく歌えたけど、やっぱり緊張感のあるもののほうがあとになって手応えを感じてくるっていうのはあります。

─新曲のなかでも言葉や構成がひときわ印象的な「Party Kills Me(パーティーに殺される!)」については、どう思ってます?

シン あれはまだライヴでは一回しかやってないけど、これからどんどんやってく曲になるんじゃないかな。

─ライヴで初めてやったとき、結構お客さんがびっくりしてた印象があります。

シン そうなんですかね? ぼくとしては、わりと片想いっぽい曲なんでけどね。

─「片想いは楽しくて破天荒なパーティー・バンドだ」みたいなとらえ方もあるじゃないですか。でも、じつは雰囲気としてはぼくらの多くが知らない初期の片想いって、こういうとがった感じじゃなかったのかなと思わせる要素もあって。

シン そうかもしれない。言葉のエモい感じとか。ただ、ぼくは「死にそう」とか「音楽やめてもいいよ」みたいな歌詞をネガティヴにとらえてないというのもあるんです。確かに文字だけ取ればびっくりするかもしれないけど、曲としてはライヴに来てくれるお客さんへの愛を込めた歌なので、ポジティヴな歌だと思ってるけど。

─最初、伴瀬くんがこの曲の「音楽やめてもいい」って歌詞を歌いたくないって言ってたという話聞きました。

シン ぼくも最初は抵抗ありましたからね。そんなこと思ってないから。でも、やってくうちに「あ、そういうことか」とわかってきた。

─言葉を歌うのは基本的にはシンさんだから、そこは気持ちが乗っていかないと。

シン 歌詞はね、自分で書くときも大事にしてないようで大事にしてるし、むずかしいところなんですよ。歌詞の内容で人に伝えようとは思わないし、どうとらえられてもいいというのがひとつあって、あとは気持ちの問題ですね。

─言葉選びの根幹って、年齢や生活が変わると、変わっていくものですか?

シン どうなんですかね? 変わっていくものではあるでしょうけど。

─たとえば、カタオモロのときは“沖縄で~じ郎”、B-positiveではTERUというシンさんに憑依するキャラクターがいるわけですけど、片想いのときは片岡シンその人として歌詞を書くわけでしょ? そこはどう自分と向き合うんですか?

シン えーとね、そうですね。ぼくは恋愛とかそういうものは歌詞には書かないけど、牧師の息子なんで聖書とかを見たりするんですよ。讃美歌でこんな歌あったなとか、そういうところからポジティヴな言葉を持ってくる。だから、日曜学校に行ってたころの思春期の自分っていうのが、片想いの作曲の基本にはあるかな。そのころを思い出して書いてる今の自分、ですね。あの14歳の自分が憑依してるのか、思い出してるのか、それを20代のころからずっとやってきてるんだと思う。

─そうなんですね。そういう言葉の話は興味深いです。アルバム・タイトルの『QUIERO V.I.P.』というのは、どこから?

シン 松永さんもツイートしてくれてましたけど、この「QUIERO」には、スペイン語の「愛してるぜ」と日本語の「消えろ」両方が入ってます。「QUIERO」は「特別に愛してる」って意味合いなんですけど、「V.I.P.」というのも「特別な人」という意味で。それを愛しているけれども、普遍的なものにもなってほしいと思ってるんです。

─ほう?

シン 「V.I.P.なんて消えちまえ」というね。全員が普遍的というか、身近な人になってほしい。

─なるほどね。そう言えば、大原大次郎くんデザインのジャケットは見ました? どうでした?

シン ぼくはまったく事前のイメージがなかったんですけど、とても素晴らしいと思います。意外すぎて(笑)。「こんなのあり?」って思うけど、たぶん、そういうことが片想いなんだと思います。ずっとアルバムをかけながら大原さんが描いてくれたらしいんで、もうなにも言うことない。すばらしいです。

─おっさんたちが楽器持って楽しそうにしてる感じとかはジャケットにはぜったいにしない、っていうのはありますよね。

シン ああ! それ一番やだ!(笑)。「はしゃいでませんよ」って、言いたい。

─さっきも言いましたけど、今回のアルバムってバンド感がすごく出てるし、今の片想いって結構充実期じゃないかと思うんですよ。みんなが片想いのことをちゃんと想ってる。

シン それぞれが役割を考えてる部分はありますね。もしかしたら、ある時期、「もう片想いやめてえな」と思ってた人もいたかもしれない。でも、彼らもその状態を超えたんですよ、きっと。そこを超えて、今はまたバンドを楽しんでくれてる。今の片想いはいい時期だし、だれひとり欠きたくないという感じはあります。

─『QUIERO V.I.P.』の先にも、また最高のアルバムを期待したいし、作れると思うし。

シン やりたいですよね。アルバムを1、2枚出して、急にサウンドが変わるバンドとかあるじゃないですか。ぼくはそれを「なんでかな?」とずっと思ってたんですけど、自分が2枚アルバム出してみたら、「そりゃそうだよな」と思うようになった(笑)。おなじことばっかりやってらんないって、ようやくわかりました。

─そうなんですよ。だから『QUIERO V.I.P.』聴いて一番思ったのは、「片想いは続いていく」ってことだったんです。ちゃんとあたらしい片想いを作ってる。

シン 長くやってると、もう自分たちで完結しちゃってるバンドもありますからね。

─「おれら存在自体がメッセージなんだから、もう新曲なくてもいいじゃない?」みたいなね。

シン そうそう。おなじことやって村の祭りを一生回ってくみたいな。片想いも目指していたライヴは「村の祭り」の感じなんだけど、「あ、それじゃいかん。進化していかないとおもしろくないよね」というふうに今はなってる。どんどんあたらしい音楽を取り入れてやっていきたいと思ってます。だって、カニエ・ウェストだって、オザケンだって、あたらしいことやってるんだって思うから。「老け込むんじゃねえ」と自分に言い聞かせてます。

─熟練を売りにしてる場合じゃねえぞ、って。

シン そう。常にオールド・ルーキーでありたい。今後、もしかして片想いが超人気が出て紅白歌合戦出たりしたとしても、ずっと新人として扱われたらいいなと。たぶん、まだぼくら新人感あると思うんですよ。ぼくらより年下のNRQより、片想いのほうが話しやすいと思うし(笑)

─NRQが貫禄がありすぎるってのもありますけど(笑)

シン そう言えば、片想いで今度、新メンバーのオーディションやるかも(笑)

─本当に?(笑)

シン どのジャンルの人でもいいから、とりあえずオーディションをやりたいんですよ。インストアとかで。

─ああ! 公開オーディション! いいかも。

シン 「片想いに入りたい」ってあんまり周りから言われるもんだから、やってみたらいいんじゃないかって。

─そう言えば、ファーストのときに、新宿のタワーレコードでやった伝説のだだスベりしたインストアがありましたよね。ライヴやらずにクイズ大会だったっけ。ハート強いなって思いました(笑)

シン だって、自分たちでスベりに行ってるわけだからね。でも、ああいうしんどいのはもうできなくなりました(笑)

─ひとつ、究極の質問なんですけど、片想いって、売れたいんですか?

シン これはずるい答えかもしれないけど、多くの人に届けたいわけだから、売れたいですね。お客さんが「うわー!」ってなってくれたほうが断然あがるし、「お客がいようがいまいが関係ない!」なんて思えない。そういう意味でも、ぼくら普通の人ですから!(笑)

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