2015年、カクバリズムよりリリースした『世界各国の夜』がロングセールスを続けているVIDEOTAPEMUSIC。リリース後、フジロックフェスティバルへの出演や、全国各地のイベント出演、ceroや坂本慎太郎、クレイジーケンバンドなど、数多くの映像作品のディレクターとして活躍を続けていた彼が、満を持して2年ぶりの3rd Album『ON THE AIR』をリリース。
タイトルの「ON THE AIR」は直訳すると「(テレビやラジオが)放送中」の意味。
今まで通りVHSテープからのサンプリングは多用しているものの、『世界各国の夜』以降の作曲方法として、実際に街を歩きまわって(ときに車で走り回り)風景を見ながらフィールドレコーディングをして、その中で感じた事を曲にしたり、目に見えなかったり形を持たない空気中に漂っているもの(ON THE AIR)をモチーフに作られたアルバムとなっています。
郊外の夜の国道沿いの風景を思わせるメロウなムードの中に、亜熱帯のエキゾチックなグルーヴや、異国の祭り、アメリカ文化、スイングジャズなど、様々な時代や街の記憶とサウンドが目に見えない電波となって混線していく。
いつかの時代の、どこかの街の、誰か知らない人が無意識に放った電波が、2017年、東京のひとりの男の手でサンプリングされ、どこかの街の、どこかの誰かに聴いてほしい、素晴らしい作品が完成。

VIDEOTAPEMUSIC 3rd ALBUM 「ON THE AIR」

  • 1.On The Air
  • 2.Sultry Night Slow
  • 3.Ushihama
  • 4.ポンティアナ
  • 5.密林の悪魔
  • 6.熱い砂のルンバ
  • 7.モータープール
  • 8.Her Favorite Song
  • 9.Her Favorite Moments feat. NOPPAL
  • 10.Fiction Romance
  • 11.煙突

発売日:2017年10月25日
販売価格:2700円税込
品番:DDCK-1052

All Songs Produced by VIDEOTAPEMUSIC

初回入荷分限定特典

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    (2015〜2017)
    by VIDEOTAPEMUSIC

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MUSIC VIDEO

INTERVIEW

 『ON THE AIR』を、夜の散歩の友としてどれだけ聴いたか、もう数えきれない。

 前作『世界各国の夜」が、世界を脳内から覗き見たシネマスコープだとしたら、この『ON THE AIR』は自分自身と現実の街並みをハンディカムで長回ししているよう。さまざまな映像や音に巧みなカットアップを施した編集作品ではなく、街に漂う空気や蒸気や霊気をそのまま蒸着させたフィルムが映し出されている感覚が濃い。また、初期キャリアからの重要曲である「Her Favorite Song」「煙突」が今回のアルバムに収録されていることからも、自身にとってのこれまでの活動と生活を総括したような面も含まれていると感じる。いわば、これまで行ったことのない世界や自分が知らない時代に向けていたカメラのレンズを、VIDEOTAPEMUSIC自身にも向けた、とんでもなく重要なアルバムなのだ。

 前作以降に体験したさまざまな舞台、アルバム制作の契機、制作にヒントを与えた出来事、そして、アルバムの収録曲について。VIDEOTAPEMUSICへのインタビューは計2回、合計3時間に及んだ。全2回で合計2万5千字ほどになる予定。まずは前半から、じっくりとお読みください。 (インタビュー・松永良平)

前編 後編

前編

─新作『ON THE AIR』を待望してました。『世界各国の夜』からは、ちょうど2年1ヶ月ぐらい。

VIDEO 当初は夏に出すぐらいの目標だったんですけど、ちょっと遅れましたね。でも、この2年は自分としては早かったです。今年の前半ぐらいは「本当にできるのか?」みたいな感じで自分でもすごく不安でした。

─『ON THE AIR』というタイトルは、アルバムの全体的なコンセプトを俯瞰するうえでも重要なものになりましたけど、これを思い浮かんだのはいつ頃?

VIDEO 5月くらいですかね。タイトルはずっと考えてて、“ロードサイド”とか“ゴスペル”とか、いくつかアルバム制作におけるキーワードはあったんですけど。それこそ今回「煙突」って曲が入るから『煙突』ってタイトルもいいかな、とか。でも、ジャケのデザイン込みでタイトルを考えた時に、漢字二文字で『煙突』って言葉がジャケに入った時のイメージがあんまりできなかった。そのうち、あるとき家の近くを散歩してたときにハッと『ON THE AIR』って言葉が思い浮かんだんです。ああ、これでいいじゃんって。

─『ON THE AIR』は、今回収録された「Her Favorite Song」の元ネタにもなったデヴィッド・リンチが手がけたテレビ・シリーズのタイトルでもありますよね。

VIDEO そのVHSが、僕がVIDEOTAPEMUSICっていう名義で映像からサンプリングして音楽制作を始めるきっかけでもあるんですよね。地元の通ってたレンタルビデオ屋がつぶれて、“紙袋3袋詰め放題”みたいな在庫処分セールをやっていて、僕が行ったときは、もうめぼしい映画もほとんどなくなってたけど、「デヴィッド・リンチ」って書いてあったから内容も知らずに無理矢理選んだのが『オン・ジ・エアー』(1992年)だったんですよ。だから、今回そのスタート地点にまた戻ったというか。

─この言葉をラジオの“ON AIR”に引っ掛けて考える人もいるし、坂本慎太郎さんのアートワークに引っ張られて、もっと霊的な怖さと受け止める人もいるでしょうね。

VIDEO いろいろ解釈できるなとは思ってました。具体的にはサンプリングのネタでもあったし、ラジオの“ON AIR”的なものを連想する人もいるだろうし、横山剣さんが言うところのソウル電波的なものだったり、霊的なスピリチュアルなものだったり、「空気の上」と直訳すれば言葉の中に含まれる意味が多そうだなと思ったから、ちょうどいいと思ったんです。

─「煙突」の煙も“ON THE AIR”的なものに含まれるっていう。

VIDEO そうなんですよ。煙突の煙だったり、空気中に漂うあらゆるものがこの言葉の中に、広く解釈すれば含まれちゃうと思って。

─それがVIDEOくんの活動開始のきっかけとなった作品ともリンクしていったわけですから、すごい帰結ですよね。ある意味、運命的でもあるし。今、話題に出た「煙突」も「Her Favorite Song」も、それこそVIDEOTAPEMUSICのごく初期からやっていた曲ですけど、今回正式に収録されていて。しかも、この2曲は僕がここ数年VIDEOくんを見てきたなかでも、むしろ近年になってセットリストから外れない重要な位置になっていて。

VIDEO そうですね、結果として、やっぱり外せなかった。10年くらい前に考えてたことが、今も意外と続いているんだなと思います。

─そもそも、このアルバムの種になったような存在の曲とか、きっかけになった出来事はなんですか?

VIDEO 去年のワンマン(2016年12月10日、渋谷WWW)かな。あのあたりから今の自分が考えてることを具体的に言葉にしたり、それを反映した曲作りを意識しはじめました。それまではライヴのために新曲を作ってという感じで、特にアルバムを想定してなかった。

─VIDEOくんも自分でアルバムのセルフライナーに書いてますが、身近な場所にフォーカスしていくということがテーマとして浮かび上がってきたっていうことですよね。僕は、そのテーマでいうと、もっとさかのぼって「Royal Host (boxseat)」(『世界各国の夜』収録)にも萌芽がある気がします。あのバラエティ豊かに世界各国の夜を描いたアルバムのなかに、家の近所のロイヤルホストがひとつの景色として入ってるっていうのが、じつは布石として重要だったんじゃないのかなと。

VIDEO そうですね、その辺はクロスフェード気味だった気がします。僕は1曲をつくるペースがめちゃめちゃ遅いので、いつも前の作品からのコンセプトが混ざり合いながらクロスフェードしてるところがありますね。作ろうって思っても一ヶ月とかでは作れないし、大体半年ぐらいがかりになるし、アイデアとしてはあったけど、その時点では形にできなくて次作に持ち越される曲もあったりするし。ただ、そもそも自分の近所にフォーカスするというのは、わりとテーマ的にはずっと続いてきてるものではあります。

─さらに「Royal Host (boxseat)」からのテーマの中継点として、16年夏に配信シングルとして発表された「Sultry Night Slow」もあります。あの曲で実現できたコンセプトというか、肌合いみたいなものにも、VIDEOくんなりの手応えもあったんじゃないでしょうか。

VIDEO それもありますね。あのときは曲だけじゃなくて、MVで実家のあたりの団地とかリサイクルショップとか、身近な場所で映像を撮ったので、そういうものへの興味っていうのが徐々に出てきました。でも、あの時点ではまだ前面には出てないですね。音楽の後ろのほうにあったテーマが、「Sultry Night Slow」をやって、年末にワンマンやって、徐々に前に出てきたっていう感じです。

─この期間のトピックだと、ceroと合体した〈cero×VIDEOTAPEMUSIC〉での活動もありました。FUJIROCK '16にceroVIDEOで出演しましたしね(2016年7月24日)。しかもあのときの一曲目が「煙突」で、びっくりしました。

VIDEO 髙城(晶平/cero)くんが「一曲目でやろう」って言ったんですよ。WWWで「Sultry Night Slow」のリリパ(2016年6月25日)を、僕とcero(ceroVIDEOでのセットも含む)とEVIS PRESLEY BANDでやりましたけど、あのときも自分のセットの最後で「煙突」をやって。そしたら、髙城くんが「ceroVIDEOでも『煙突』やりたい」って言ってくれて、そこからFUJIROCKに向けて仕上げていったんです。

─ceroとの関係だと、ここ4本はceroのMVはVIDEOくんが監督していますけど、特に16年の暮れに発表された「街の報せ」のMVが素晴らしかった。

VIDEO ありがとうございます。あのMVの内容は、同時期にあった自分のワンマンライブの内容とも繋がっている気がします。ワンマンの冒頭では、その日のフライヤーにもなっていた安田謙一さんからもらった50~60年代くらいの渋谷のスクランブル交差点の絵葉書から、現代の渋谷のスクランブル交差点の映像にクロスフェードして、今の工事現場や外国人観光客だらけの渋谷の風景を通り抜けてWWWに到着する、みたいな映像を流してからライブを始めました。ライブ本編でもその年の福生の米軍基地のお祭りの映像を使ったり、今現在の景色を記録したような映像を取り入れたものをそのときはやりたいって思ってて、ちょうどそのタイミングで「街の報せ」の話も来たので。でも、じつはその前にSPACE SHOWER TVで放送されたWWWXのオープン記念の特番で、WWWXのこけら落としでceroが「Elephant Ghost」を演奏したライブ映像を僕が演出したのも大きかったです。あれは放送だけでウェブにアーカイブされてないから見た人少ないかもしれないですけど。あの映像でもライブとそのときの渋谷の景色を組み合わせたんですよ。渋谷の景色って今すごく流動的で、工事とかで日に日に道も変わってるのが気になって、WWWXがオープンした時の渋谷の街がどんな雰囲気だったのかも記録したくて、毎晩渋谷を徘徊しながら撮った映像と、ceroのライヴ映像を組み合わせた映像を作りました。そのときぐらいから、今の景色を記録しながら作品を作っていこう、みたいな気持ちが強くなってきてました。

─そこは結構重要な部分ですよね。

VIDEO そうですね。古いものも新しいものも共存している感じというか。古いものが良いとか、珍しいものをおもしろがるとかではなく、いろんな多様性が景色の中にあることの良さ。僕は、景色が画一化されていくのは単純におもしろくないと思っているんですけど、かといって時代とともに風景が変化していくのは自然なことだと思うので、別に古いものを残そうと言いたいわけでもない。ただ、街の中からノイズみたいなものがなくなって、味気なくなっていくのがいやなんです。だから、異なるものがせめぎあってるおもしろさのある景色を探したくなっちゃいますね。

─だからこそVIDEOTAPEMUSICらしさが生まれるわけだし、その並列感が一番の新しさにもなっていて。

VIDEO その感覚は自分の音作りにもダイレクトに反映されるんですよね。ただ昔の古いレコードを再現したいっていうわけでもなくて、昔の音のサンプリングと、現代の感覚や最新の機材の組み合わせでエラーを起こしたいという感じなんです。そういう部分で、自分が好きな風景みたいな音楽を作りたい。いろんな時代の流れだったり、思い通りにいかない部分で取り壊せない建物がある一方で、新しくなっちゃってきれいに舗装された道がある。そこにいろんな人の思いが交じるし、景色の中にノイズが残る。そういうのがすごく美しいし、音楽もそれと同じような感覚で作れたらいいなと思うんです。

─今、VIDEOくんは“ノイズ”という言葉を使いましたけど、それは今回のアルバム冒頭のタイトル曲「On The Air」にうっすらサンプリングされている「いかにうるさいかビデオで撮っておこうな」というセリフにもつながっていく感覚ですよね。

VIDEO あれは僕が幼稚園の遠足のときに撮られてたホームビデオからサンプリングされたセリフなんです。お弁当の時間に、僕がふざけて「いただきます」じゃなくて「行ってきます」ってずっと言ってるのを先生がビデオで撮りながら、「いかにうるさいか、ビデオで録っておこうな」って言ってる(笑)。それをサンプリングしようと決まったときに、いろいろ見えてきたんです。

─結果的に、その映像がアルバムのトレイラーやダイジェストにも使われています。VIDEOくんには、おなじく幼稚園の頃の演奏会のビデオをサンプリングした「1990年のカッコーオーケストラ」(CD-R収録)もありますね。

VIDEO 今回は「煙突」も入れることにしてたし、自分の生まれ育った土地や、自分自身さえもサンプリングの素材にしてしまおうというコンセプトがあったんで、自分が過去に作ったデモとか映像とかも実家で掘り起こしたんです。そのなかにあの映像があったんです。撮られてるときは、まさか先生も自分も音楽として成立してCDで出るとは思っていないでしょうね。

─先生のセリフはちょっとしたユーモアから出た言葉だと思うけど、期せずして記録メディアの役割や運命を説明している感がありますよね。

VIDEO そうなんですよ。記録されたものは、いつどこで誰に発見されるかがいい意味でも悪い意味でもわからないし、いつか誰かに掘り起こされるってことを予言してたみたいな、おもしろさもあるし、怖さもある。それだけで僕がVIDEOTAPOEMUSICとしてやろうとしてることのおもしろさが集約されてるんじゃないかなと思ったんです。作りながら「やっぱりあのセリフが重要だったな」と思うようになって、アルバムのダイジェスト映像ではさらに自分の言葉として「この街はとてもうるさい」を足して、昔の先生の言葉と今の自分の言葉をマッシュアップさせて、「この街はとてもうるさい、いかにうるさいかビデオで録っておこうな」というアルバムのテーマとして冒頭に入れたんです。

─その“うるささ”はリアルな街の喧騒でもあるし、VIDEOくんが街から感じたノイズでもある。

VIDEO そうです。アルバムのテーマと、VIDEOTAPEMUSICとしてやってることのおもしろさが、そこに集約できるんじゃないかなと。

─前作『世界各国の夜』のオープニングの「未来の人たちは私たちのことを知るだろうか?」とも対応してゆく。

VIDEO そうですね。そことも対応してるし、それと同時に、忘れ去られるものや記録されないもののことも、制作中には自分の中にぼんやりありました。さらにいうと、大学のときに聴いたラジオドラマで『コメット・イケヤ』(1966年放送。作・寺山修司、音楽・湯浅譲二)というのがあるんです。それを思い出して、今回youtubeに上がってたのを聴き直してみたら、そのドラマのなかにアルバムの内容に通じる部分を感じました。なにかが見つけられたときになにかがいなくなるというか、逆にいえば、なにかがなくなったときにはなにかが生まれているんじゃないかという、そういうテーマがあって。

─『コメット・イケヤ』は当時、イタリア賞グランプリも受賞していて、レコードにもなっている伝説のドラマですね。浜松市のピアノ工場で働いている少年工が彗星を発見した話と、盲目の少女の日記と、ひとりの蒸発したサラリーマンを探す話が交錯していく。

VIDEO 大学のときにUFOの映像や心霊写真の歴史をすごく調べてたことがあるんです。オカルトとかじゃなくて、「なぜ人は映像の中にUFOを見てしまうのか」とか「写真の中に幽霊の姿を見てしまうのか」とかいうことが、映像や写真技術の発展と切り離せないと思ってたので。『コメット・イケヤ』のこともその過程で知りました。彗星って、望遠鏡が発達したら見えるもので、肉眼では見えない距離にはいつも存在しているわけですよね。つまり、見ようと思ってない人には見えてないんだけど、彗星が発見されるということはそれを見ようと意識した人がいるということだって話で。なんかその話って、UFOとか心霊写真とつながるなと思ってたんです。いがらしみきおさんの『I【アイ】』にも「見ればそうなる」というセリフが出てきますが、まさにUFOも彗星も電波も「見ればそうなる」存在なのかなと。そういうものが巡り巡って今回の作風にもつながってくる感じがして。アルバム作ってるときはそんなに意識してなかったんですけど、無意識に自分の中に染み込んでたものが色濃く出たアルバムだったのかなと今は思いますね。

─もともと私小説的な匂いが強くなるだろうということは前から言ってましたよね。それに加えて、空間に誰かの思いや痕跡が浮かんでるのを見てしまうということが重なり合っていったことですごく重層的になった感じがあります。

VIDEO そうですね。あとは制作中に読んでいた木下直之さんの著書『近くても遠い場所 一八五〇年から二〇〇〇年のニッポンへ』や岸政彦さんの著書『断片的なものの社会学』あたりの影響もあると思います。岸さんの本は「街の報せ」のMVを撮り終えた後にたまたま本屋で見つけて、目次を見たらよさそうだと思って買ったんですが、「街の報せ」のMVでやろうとしてたことがそのまま書いてあるような本だって思いました。どちらも自分の近くにある身近すぎて見落としていた景色から、新しいおもしろさを再発見させてくれるような内容でしたね。なんてことのない国道沿いの街にも歴史はあるし、意外な場所に外国人たちのコミュニティがあったり、似たような街のように見えて違う文化が隅っこに根付いていたり。ceroの「入曽」で髙城くんが歌っているような、何気ない郊外の茶畑をエキゾチックに捉える感覚にも繋がってくる気がします。

─そういう意味で、「煙突」と「入曽」は、曲としてある場所が結構近い。

VIDEO 「煙突」も近くて遠い場所ですからね。自分の部屋の窓から見えるけど、そこで燃やされているのは誰かの生活から出たゴミというか、他人の生活の痕跡が燃やされている。さらに、今回アルバムの制作が終わってから煙突のふもとに行ってみたら、そこには焼却場の熱を使った温室があって、植物が育っていたんです。そういう“なにかが煙として消えている場所で、別のなにかが育っている”という感覚は『コメット・イケヤ』にも通じるんです。

─そして、そこが、『ON THE AIR』を、シンガー・ソングライター的にも感じさせる部分でもある。

VIDEO そうですね。『世界各国の夜』でもおなじような思いはあったんですけど、もうちょっと自我を消すような感じがありました。それまでは、曲に誰かの気持ちを憑依させる感じで、そこに自分を出すことにはそんなに興味はなかったんです。でも、今回はもうちょっと他人と自分を並列に扱いたくなった。他人も描きながら自分も描く。それが自分の映ってるホームビデオもサンプリングするということにもなっているし。

─フィールドワーク的なんだけど学術的ではなくて、もうちょっとスタンスが私的なんですよね。それこそ永井荷風の『断腸亭日乗』とかさ、そういうもの。そんなに遠くまでは行かないけど、おなじような景色が日々少しづつ変わっていくさまが、自分の心情と重なって映し出される。ジャームッシュの近作『パターソン』的とも感じます。

VIDEO こないだ『POPEYE』の映画特集号で、小津安二郎の『お早よう』を紹介したんですが、あれもなにげない庶民の暮らしを追っていて、ありふれた生活を描いてるからこそその時代の特色が如実に表れる。そういう映画がわりと好きだし、なにげない景色からその時代の人の気持ちが滲み出てくるようなのが好きだし、自分の作品もそういうものにしようと思ったところはありました。映画だと空族の『サウダーヂ』や『バンコクナイツ』だったり、『パターソン』からも感じた感覚ですね。ローカルな風景を描きながら世界をあぶり出していく、みたいな。

─その感覚、わかります。

VIDEO そういうものに目をつけるようになったきっかけとしては、過去にクラシック・バレエの舞台撮影の仕事をしていて、毎週末各地の地方都市に行っていたのが結構大きいと思ってます。今はライヴでも地方に行きますけど、それは文化がある街だったり、主要都市だったりする。でも、各地のバレエ教室で映像を撮る仕事をしてたときは、本当になんてことない地方都市に行ってたので。駅前もシャッター商店街だし、国道沿いはチェーン店とパチンコ屋ばっかりで、クラブやライブハウスやレコード屋なんてものは当然ない。ビジネスホテルに泊まるけど、夜の駅前は閑散としてて飲食店はすぐに閉まってしまう。結局コンビニで缶ビール買ってホテルの部屋で飲む、みたいな。そういう景色を毎週見てたことが、いわゆる日本の平均的な景色はどういうものなんだろうということを考えるきっかけにはなりましたね。でも、表面上はどこも似たような風景ばかりかもしれないけど、前乗りして街を歩いてると、僕にとってはおもしろいものが結構見つかるんですよ。たとえば茨城の勝田に泊まった時は、夜の公園でツイストやオールディーズで踊る若者を見つけました。ワンボックスカーを停めて、ツイスト流して、上下スウェットで踊るヤンキー。衝撃的でした。気になって「勝田 オールディーズ」って検索してもインターネットには一切情報が出てこなかったし。そういうものはフラットな地方都市の国道沿いに実際に行ってみるとあったりする。その感覚をいつか作品に活かそうかというのはずっと思ってました。

─勝田でツイストで踊るヤンキーを見る視点は、新作の「Her Favorite Moments」にサンプリングされた福生の米軍基地の女の子たちと同列の感覚ですよね。おもしろがり、じゃない。

VIDEO そうですね。ああいった何の変哲も無い地方都市の夜の公園でオールディーズを聴いて踊る若者たちを見るなんて、本当に狐に化かされたんじゃないかというくらいの驚きがありました。そういえばこないだ川辺ヒロシさんと一緒に浜松に行った時に、ライブした会場のすぐ近くにブラジル人の集まるクラブを見つけて入ってみたのですが、そこで流れているのもいわゆる世界的なクラブヒットじゃなくて、ブラジルのローカルなヒット曲ばかりで。でもネットで調べるとMVは1億回くらい再生されているんですけど、日本では誰も話題にしていない。まるで並行世界の出来事のようで。やっぱり僕らが知ってる海外の文化っていうのは、海外向けに発信されているものだけで、本当にドメスティックな音楽ってどこの国にもあるだろうし、そういうのが普通の地方都市から浮かび上がってくるという体験があまりにも多かったので、自然とそういうことを考えながら作品を作っていったという感じです。

─話を聞けば聞くほど、興味深いですね。

VIDEO とはいえ、見たことや考えたことをそのままやるというのは、僕はあんまり目的としてないんです。見たものを一旦忘れたり、勘違いしたりしながらエラーみたいなものをそこに入れていくという感じです。そういう意味では、あまり音楽を作曲しているような感覚はないし、バンドの作り方とも違いますからね。色々なバンドを見たりしても、共同作業の良さ、バンドの良さというのも感じるんですけど、まあ、僕は僕なりに違うやり方でもいいんじゃないかなとは思うようにしています。家で孤独で悶々となにか作っても誰にも見向きされなかった自分の学生時代の気分を肯定できればいい、という感じはありますね。孤独でもなにか作れる、みたいな。

─ゲーテも孤独は大事だって言ってたと、昔、聞いたことあります。

VIDEO いろんな人とやったほうがいろんな意見が取り入れられて健康的だし、きっといいものができるんだけど、僕はそんなに正解を出すことが目的じゃないんですよ。ひとりでやってるからこその間違いというか、歪んだ表現とかエラーをおそれずやっちゃっていいという心構えはあります。最近も他人の作品でも、個人の世界が色濃く出たソロ作品に勇気付けられることが多かったです。アルバムにも参加してくれた鶴岡龍さんの『LUVRAW』や、KASHIFさんのソロ『Blue Songs』も、NRQの吉田(悠樹)さんのソロ『ROAM』もよかった。

─それに、孤独と言いながら、制作中はいろんな時代のいろんな声を聴いてるわけですしね。まあ、別にみんな「がんばれ」と言ってくれてるわけじゃないんだけど。

VIDEO でも「がんばれ」と言われてる気持ちになることもありますけどね。励まそうと思ってないものから励まされる、みたいな。

─「どれだけうるさいかビデオに撮っておこうな」も30年越しにビデオの向こうから聞こえてきた声ですもんね。そういえば、岸さんの本に出てくる話で、仲のいい夫婦が旅行に出かけるときに泥棒に入られたらいやだから、自分たちの楽しそうなおしゃべりをエンドレスにして流して出かけて、旅先で事故にあって二人が亡くなって、部屋では永遠に楽しげな声だけが流れ続ける、って話があったじゃないですか。

VIDEO あれはすごくよかったですね。ちなみに、「煙突」のあったふもとに温室だけじゃなくて廃虚になった空き家があるんですけど、その感じとも似てます。かつて住んでた人が置いてた観葉植物がめちゃめちゃ育っちゃって、家を覆い尽くすほどになっていたんです。それも『断片的なものの社会学』や『コメット・イケヤ』につながる話かなと思うんですよね。主がいなくなった後も家で育ち続けてる植物の怖さというか。なにかが朽ちてくいっぽうで育ち続けるものがあるというのは都市も一緒に感じます。あと、これはアルバムの話にどこまで関係するかわかんないですけど、最近、家で観葉植物を育てるようになったんんですよ。

─本当?

VIDEO 蘇鉄と、よくわからないでかい葉っぱの植物と、サボテンみたいなのとかいろいろ育てているんですが、どれも勝手に伸びまくっててすごいんですよね。学校とかで子供の頃から環境破壊や自然破壊の問題に触れてきたことの刷り込みで、植物は弱くてはかないものというイメージが強かったのですが、今はその一方でものすごく強いものかもと思います。もちろん小さい草花を見てかわいいなーとかも思うのですが、最近は文明の対極にある恐怖の対象という思いが日に日に強くなってます。

─雑草の生え方の速さや強さとかね。

VIDEO 夏場の雑草はゾンビみたいで怖すぎますね。ほっといても勝手に成長する植物の、文明を超えたところにある物事の摂理というか。人間がコントロールできるものじゃないと思えてきます。ビデオって記録芸術とはいってもテープにカビが生えたりするし、レコードも物質だから劣化はする。ハードディスクに保存したデータもいつかは飛んじゃう。つまり、記録といえどもじつは絶対じゃない、みたいな感覚があるんですけど、植物はその対極だなと思ってます。ずっと自分がやってきたことの対極にある存在として、今は植物にすごく興味があるんです。

─一回枯れてしまっても、種さえあればまた生えてくるわけだし。

VIDEO いつか戦争が起きて人類が滅びてしまっても植物だけは育ち続けてるんじゃないか、みたいなことは思いますね。あと、僕のバンドで今ギターを弾いてるウッシー(潮田雄一)は巨木マニアなんですよ。樹海とかにあるやつじゃなくて、街の中にある巨木が好きみたいで。そういう木って、神木だったり、なにか意味があって残されてるものが多くて、なんらかの人の意志があって守られてる。そういうふうに考えていくと、生活とか文化とか過去の痕跡とかって、映画とかレコードっていう記録芸術の中だけに残されてるだけじゃなくて、じつは街の風景だったり、木だったり、看板だったり、そういうものにも記録されてると思いました。

─そういえば、目に見えないものの発見としてVIDEOくん、湿度の話もしてましたね。

VIDEO 湿度の発見は本当に不思議でした。ついこないだまでそういう概念の存在すら知らなかったですから。ジメジメするとか、カラっとしてるとか、何のこと言ってるのかよくわかってなくて。加湿器を買って数値で見たときに初めて「これが湿度か」とリンクしたんです。そうしたら案外、湿度みたいに自分がまだ気付けていない感覚っていろいろあるんじゃないかと思って。空気中に漂う目に見えない電波とか亡霊みたいなものも案外ありえるのかもとも思いました。

─そういう意味だと、「Sultry Night Slow」の“Sultry”も“蒸し暑い”という意味で、すでに湿度とリンクしてたんですよね。そういうものを意識し出すと、ひたすら「この街はうるさい」になっていくという。

VIDEO そうですね。だから「いかにうるさいか、ビデオに録っておこうな」と。霊が見える見えないじゃなくて、ある景色から途方もない過去を想像しちゃったり、そこに住んでいたけど死んでしまった人を勝手にイメージしてしまったり、考えすぎて急に怖くなったり。もしかしたら自分が今まで湿度に気づかなかったように、それを何か違う感覚で表現できるのではないか、みたいなことだと思うんです。音楽は目に見えない分だけそういったものを表現するのに適してるし、親和性が高いんじゃないかとか、スピリチュアルになるギリギリのラインを綱渡りしながら考えたりしてますね(笑)

─では、後半は一曲ずつ、さらにディープに『ON THE AIR』の収録曲を掘り下げていきましょうか。

後編

─では、アルバム『ON THE AIR』の全曲紐解きインタビューを始めます。M①「On The Air」。大文字小文字の表記は違うけど、アルバム・タイトル曲です。

VIDEO 今回、川辺ヒロシさんからすごい大量にVHSもらったんですけど、そのなかにデューク・エリントンのビデオがあって、そこからジョニー・ホッジスがサックスを演奏しているシーンをサンプリングして組み立てていきました。あの人の音色がすごいあの世感があるというか、ベンドするので音程が揺らいでいて、すごくいいなと思って。アルバムの1曲目にするにはドープすぎないかな? とも思ったんですけど、この遅さがで今回アルバムのムードを決定づけるのに必要な気がして。そこに混線したラジオの電波とか、自分の昔の幼稚園の遠足のホームビデオの音声を織り交ぜて、あの世の扉を開く、みたいな。

─「On The Air」でアルバムが始まるのはひとつの勝負でもあるし、最高にセンスいいですよ。

VIDEO すごく遅い曲が作りたい気分でもあったんですよ。

─遅いし、バックビート気味だから、本当にあの世に引きずり込まれる感があります。エリントンからの影響はVIDEOくんは最近よく口にしてますよね。エリントンの音楽も、遅さの素材としてひとつありますね。

VIDEO 『アフロ・ユーラシアン・エクリプス』(1971年)っていうアルバムが好きで、その冒頭のエリントンの語りに引っ張られたりもしました。視点を変えれば、自分の住む場所も含め世界中がオリエンタル化する、というような内容で。自らの音楽を「ジャングルミュージック」と称していたり、エキゾチックな音楽を考える時に、マーティン・デニー以上にエリントンも重要な存在だなと思っています。エリントンには「Sultry Sunset」っていう曲もあって、“Sultry”って言葉が「Sultry Night Slow」につながってくるなと思って、その曲もサンプリングされています。結果的にエリントンがアルバムの重要なテーマにもなってます。

─隠れた主役と言いましょうか。そして、その流れでM②「Sultry Night Slow」につながって。

VIDEO じつはタイトルに「Slow」ってつけたの角張さんなんですよ。

─あ、そうなんだ?「Sultry Night」だったの?

VIDEO 何バージョンか作ってて、それのスロー・ヴァージョンって意味でした。なのでファイル名を「Sulty Night Slow」ってつけてたら、角張さんがそこまでタイトルだと思って。

─そうなんですね。じゃあ「Sultry Night Fast」とか、速いバージョンもあったんですね。

VIDEO ありました。“Fast”、“Slow”、“Dub”の3種類ありました(「Sultry Night Dub」は配信シングルのカップリングでリリース)。結果的に、「slow」と付いたことで、これも遅さがテーマになりましたね。

─アルバム・ヴァージョンということで再録音されています。

VIDEO イントロがすごい長くなったのと、アウトロがフェードアウトじゃなくなったのと、他の音もだいぶ差し替えてますね。ドラム、ベースもほぼ差し替えてます。

─イントロの長さが結構な勇気というか、アルバムならでは、ですよね。

VIDEO あの長さはライヴのアレンジだったんです。「Sultry Night Slow」をライヴの一曲目でやるときに、イントロをすごく長くしたことがあって、不穏なコードとノイズの中から徐々にビートが立ち上がってくる感じが個人的に気に入ってたのと、ラジオの無線のサンプリングを入れる尺がほしいと思ってたんです。子供の頃、親にトランシーバーを買ってもらったことがあって、性能が悪いのですぐにタクシーの無線を受信しちゃうんですが、それを聞くのがすごい好きだったんですよ。なので“ON THE AIR”的な要素のひとつとして、この曲にタクシー無線の電波も混線させたいなと思ったんです。

─気の合う二人が一緒にいても黙っちゃうときあるじゃないですか。決していやじゃない黙りというか。そういう時間の良さがあって、ラジオでは誰かしゃべってる。そういう良さを思い浮かべます。

VIDEO タクシー乗ってて運転手も自分もしゃべらないけど無線の音だけが聴こえてるみたいな、そういう感じですよね。

─ギリギリでロマンチックな感じがあって、アルバムのここにこのイントロで入って、この曲がまたすごく好きになりました。

VIDEO 流れ的には、2曲めはもっとキャッチーな曲を入れようかとも思ったんですけど、一度ライヴで「On The Air」から「Sultry Night Slow」につなげてやったときに、つながりが気持ちよかったんですよ。その気持ちよさのほうを選んじゃいました。ぬるっとあの世の扉が開いて、タクシーの無線が混線して、現実っぽいビートが入ってくる、みたいな。あの世とこの世のゆるやかなクロスフェードみたいな感じを作りたかった。本当はアルバム1枚そのムードで通したいなくらいの気持ちはあったんですけどね。あとは、さっきも言った湿度っていう概念の発見だったり、いろんなものが絡んでくる曲ではあります。

─M③「Ushihama」。これもライヴではときどきやっていましたね。

VIDEO WWWでの藤井洋平とツーマン(2017年4月7日)のときにやりましたね。地方に一人で行くときも、ちょいちょいやってました。この曲ができたのには明確なきっかけがあって、70年代の福生や立川のディスコで遊んでた人がその当時の話を書いているブログを見つけて(『昼寝するブタ』というサイトの、「(未完)1970年代のディスコの話」という記事)それがほんとにおもしろかったんですよ。そのなかに福生の話があって、牛浜の〈BP〉っていう、まだ米兵がいっぱいいた時代のディスコが出てくるんです。その店で、夜中の3時過ぎると南部の暗いR&Bしかかからなくなっちゃうらしくて。そうすると本当に踊れないし、つまらないので、お店を出て、自動販売機もろくにない時代なので人の家の庭に勝手に入って蛇口ひねってのどを潤したり、始発まで適当なベンチで横になると蚊に刺されまくって、いい加減疲れた頃に太陽が昇る、みたいな話が書かれていて。僕がわりとよく行ってた牛浜という街にいた会ったこともない他人の思い出と、自分の歩く道が合わさったときに、“牛浜のフェンス沿いの道を歩きながら朝まで過ごした男の曲”をつくりたいなと思ったんです。

─アート・リンゼイが最近インタビューで話していた“ヴァーチャル・ノスタルジー”って言葉を思い出させるエピソードですね。

VIDEO その“牛浜のディスコで日本人の男が深夜3時に聴く、踊れない南部のR&B”みたいな言葉が、何か自分の中のブラックミュージックの扉を開いてくれたっていう感じがあったんです。そういう場面でかかってる音楽っていうのを想像したときに、見えてきたものがあった。いろんなフィルターを通した、国道沿いのゴスペルみたいなものをつくりたいなと思ったんです。「こんな遅いR&Bじゃ踊れねぇ」とか言いながら、泥酔状態でディスコの外に出て熱帯夜の国道をトボトボ歩くけど、耳鳴りみたいにさっきのR&Bの曲のフレーズがリフレインしている、みたいな。実際にそこでかかっていたのはこんな曲ではないと思うので、完全に妄想と偏見だらけのブラックミュージック感ですが。

─それはある意味、誤解かもしれないけど。

VIDEO 誤解かもしれないけど、自分にとっての“黒い”はそれだったんです。深夜の牛浜で流れてる踊れない音楽。自分のなかのブラックミュージックの扉がそこで開いた、という。

─おもしろいです。続いてM④「ポンティアナ」。

VIDEO わりと最後のほうに作りました。アルバムのテーマでもある国道沿いのメロウさと、ライヴに向けにバンドでアレンジを重ねたアッパーな「密林の悪魔」あたりの曲が分裂しそうで、アルバムの中でどう共存させようかと悩んでて、その中間になる曲を作ろうと思ったんです。たまたまそのタイミングで埼玉の松原団地に出かけたときに、普通の国道沿いの取り壊しの団地の中にいきなり「ポンティアナ」って看板が現れたという印象的な出来事があって。それってインドネシアの都市の名前で、かつて日本人による虐殺が行われた街で、かつ今ではいろんな民族が住んでいる東南アジアの街だったんですね。さらには、マレーシアには“ポンティアナック映画”っていうホラー映画のジャンルもある。ポンティアナックっていう街自体、“ポンティアナック”っていう妖怪が出るっていうことで、その名前が付いた街なんです。その妖怪も起源が面白くて、夜、男性たちが夜遊びしないように妻たちがでっちあげた“夜遊びしてると現れる女の生首の妖怪”って説もあるみたいです(笑)。行ったこともない東南アジアの話が、郊外の国道沿いの一個の看板からこちら側に流れ込んでくる感覚を、曲にしました。国道沿いから密林に行くための回路が、ポンティアナって看板をきっかけにして、急につながっちゃった、みたいな。

─そもそも何の看板だったんですか?

VIDEO アロワナを扱う熱帯魚屋さんでしたね。

─そ、それはなおさら密林への導線になりますね。

VIDEO 国道沿いから密林への導線としてその言葉を選んで、その感覚をそのままに歌詞にして、歌ものにしてヴォコーダーで歌いました。ウッシーのギター・ソロも「急に異国への扉が開くみたいな感じで、東南アジアのサイケデリックなロックのように弾いてくれ」って言ったら、バッチリなやつを弾いてくれて。

─で、そこからM⑤「密林の悪魔」に入ってくる。

VIDEO 「ポンティアナ」っていう言葉がきっかけになって、電波が混線してきて密林に流れ込むみたいな流れができました。

─「密林の悪魔」は新曲群のなかでは比較的おなじみですね。

VIDEO 去年のワンマンぐらいからやり始めてますね。この曲調は『世界各国の夜』のときにもやろうとしてて、うまくハマるサンプリングソースがなくて見送ったんです。ガレージ・ロックとかロカビリー寸前っぽい音とスイングジャズの中間にあるような乱暴な曲が作りたくて。『スウィング・キッズ』(1993年)っていう映画があるんですが、ナチス政権下でジャズが禁止されたドイツで、反発した若者がスイング・ジャズで踊るっていう作品なんですけど、それを見るとスイング・ジャズは反抗する若者の象徴みたいに描かれてるんですよ。そういうスイングジャズが持っていた不良性を、ガレージ・ロックやロカビリー寸前まで近づけてあぶり出す感じで。今回はそのためのネタが揃ったので、かたちになりました。

─50~60年代の無名なジャングル・ガレージ・ロックを集めた名コンピ『Jungle Exotica』を彷彿とさせます。あと、「ポンティアナ」でもウッシーの話が出ましたけど、彼がライヴに参加したことが「密林の悪魔」のかっこよさにもつながってますよね。途中のギター・ソロは、エリントンの「キャラバン」のフレーズですしね。

VIDEO そうですね。こういったタイプの曲はウッシーのギターがあったからこそ形になったのかもしれないです。「キャラバン」でエリントンも忍び込ませていますが、「密林」という言葉にはエリントンの「ジャングルミュージック」だったり、『モスラ』や『仮面ライダーアマゾン』みたいな自分の幼少期から染み付いた原体験的なエキゾ感や秘境感も込められています。

─M⑥「熱い砂のルンバ」。これも『世界各国の夜』の延長枠なテイストです。

VIDEO そうですね。これもライヴでは前からやってました。ルンバをサンプリングしていますが、上半身だけルンバで下半身はダブのキメラみたいな曲を作りたくて。ラテンの哀愁と、ダブの重さ、そこにサイケデリックなアナログシンセの音が乗る、ていうのが単純に今自分がリスナーとして好きなテイストって感じで、そんなに深いコンセプトはないです。『世界各国の夜』を作ったあとにリハビリ的になにか一曲作ろうと思って、ちょいちょいライヴでやりながらブラッシュアップしていった感じです。ライブを見た高城くんの助言で、曲の最後の部分でキックが四つ打ちになったり、色々なアレンジを経てゆっくり今の形に落ち着きました。

─M⑦「モータープール」は、ちょっとしたチェンジ・オブ・ペースというか、ここまでがアルバムの前半戦というイメージですね。“モータープール」って駐車場という意味ですが、日本ではあんまり言わない?

VIDEO 関西では、駐車場の呼び名がこれなんですよ。ずっと不思議に思ってて。

─関東では見かけないですよね。

VIDEO 一度浜松では見かけましたが、東京では見ないですね。でも、この曲の背景は、その意味だけじゃなくて、埼玉と東京の境目にある入間とか瑞穂あたりのいかにもなロードサイド文化みたいな景色のイメージで。国道沿いにすごい巨大なパチンコ屋があって、大量の車が駐車場にいて。何もない国道沿いだけど、こんなに人って住んでたんだって思うくらいで、車が駐車場にひっきりなしに出たり入ったりしているさまが、夏のとしまえんのプールみたいっていうか。それが本当の意味での“モータープール”に見えて、むしろ僕はその景色を見てこの言葉が頭に浮かんで、その感じを曲にしたんです。実際にそこでフィールドレコーディングもして、その駐車場にいた車のエンジン音とかも鳴ってます。この曲が一番作って楽しかったですね。三日ぐらいで作りましたけど、一番イキイキしてました(笑)

─キメ曲というより、スケッチ的な曲ですよね。

VIDEO 捨て曲といったら言葉が悪いかもだけど、こういう力を入れない曲もアルバムには入れたくなっちゃうんですよね。ラフに自分の身のまわりの景色を描写するような曲をつくりたいなと思った部分もあります。本当はこういう曲を僕はいっぱい作りたいんですよ。ライヴで盛り上がる曲とか、DJでかかる曲とか、そういうウケとかを完全に無視したところにある、自分がただ気になった景色をスケッチするみたいに曲にするのが一番好きなんです。坂本さんとの『バンコクの夜』のB面の曲の感じにも近いかも。そういえば、エンジニアの得能(直也)さんも「これが一番好き」って言ってましたね。

─そして、M⑧「Her Favorite Song」。前半のインタビューでも言ってましたけど、初期のVIDEOTAPEMSUICを象徴する一曲です。

VIDEO 流れとしては「モータープール」を経て国道沿いに戻ってきた感じですね。まだほとんど何の機材もなくて、近所の国道沿いのレンタルビデオ屋とリサイクルショップで買ったVHSや機材で作り始めたときのテーマソングみたいでもありましたね。リンチの『オン・ジ・エアー』の話をあらためてしておくと、番組に出てくる音響技術師役の人がすごくいいキャラなんです。「超遠視、視力が25.62もあり、ほかの誰にも見ることができない光景がいつも彼には見えている。そんな彼に見えているのはこんな光景である」って設定で、その人には見えるトンチンカンな映像がいつも出てくるんですけど、それがすごい好きなんですよ……。自分の見ているものと他人の見ているものがそもそもおなじじゃないっていうのをコメディ的に表現しているキャラが一人いるという話なんですけど、僕がこないだまで湿度っていう数値を知らなかったみたいに、まだまだ他人には見えてるけど自分には見えてないものがたくさんあるんじゃないかって感覚が、そのキャラに集約されてる気がするんです。

─そのキャラ設定は、まさにVIDEOくん的だし、“ON THE AIR”ですね。

VIDEO ただ、もともと過去の曲も今回のアルバムには何かしら入れようとは思ったんですけど、最初から絶対この曲を入れるつもりではなかったんです。アルバム・タイトルが『ON THE AIR』になったことに引っ張られるかたちでこの曲も入れることにしました。

─ちょうど『ツイン・ピークス』もまた始まったりして。そこも流れとしては微妙にシンクロしてるっていう感じもありますね。でも、この曲を象徴してるのは、劇中の女優の歌ですよね、やっぱり。

VIDEO 歌をサンプリングする、それも歌の意味も込みでサンプリングすることを意識し始めたときの、きっかけの曲ですね。ただコラージュする素材じゃなくて、映像に歌わせて、もはや映像に映ってる人をメンバーみたいに扱うという手法で。以前ライヴを見た人からは「怖い、なんか呪われそう」って言われました(笑)

─確かにちょっとホラーな雰囲気もあります。

VIDEO 映像だと最後、主人公が宙吊りになりますしね。それが首吊りみたいで怖いって言われたのかな。怖さとかわいさが同居したみたいな感覚はあります。

─でも、その怖さは意識した部分ではあるんですよね?

VIDEO そうですね。

─ゆったりした、ゆりかごみたいなビートではあるけど、徐々に死が迫ってくる、みたいなニュアンスがあって、これはやっぱりライヴで初めて見たときから忘れられない曲ですね。たぶん、お客さんにとってもそうだから息が長いんじゃないのかな。そして、M⑨「Her Favorite Moments」。「Her Favorite Song」があって、続いて「Her Favorite Moments」。これは偶然?

VIDEO 結果的に、って感じですね。去年のワンマンのタイトルを、「映画のお気にいりの瞬間だけが延々続くようなライヴにしたい」みたいな気分で、過去の曲タイトルの「Her Favorite Song」をもじって「Her Favorite Moments」と名付けたんです。また、同時期に福生の米軍基地のお祭りにいった時、偶然アメリカ人の女の子たちがリアーナやドレイクを歌ういい映像が撮れたんで、それをサンプリングして曲にしようと作っていて。その曲が結果的に「Her Favorite Moments」ってタイトルがぴったりじゃないかと。それで、「Her Favorite Song」って曲もあるけど、「Her Favorite Moments」って曲も作ろうと思って。さらにその音源をその時のワンマンの入場者特典にしました。でも最初はインストにしようとしてて、あのビート感に対して自分のピアニカのメロがうまく乗せられず、ものにするのに苦労しました。そんな中、ふと思いついてNOPPALにラップをお願いしたら、見事に世界観が着地しましたね。NOPPALもアメリカの青春映画とかは好きだと思うので、歌詞もその感じでお願いしました。ただトラックに関しては特典のヴァージョンのときは無理やり仕上げた感も否めなかったので、アルバム収録のタイミングでビートはすべて差し替えたし、ベースも生で弾き直してもらったりしました。

─結果として、アルバムにとってもハイライト感がすごい強い曲になりましたよね。

VIDEO そうですね、特典のときからだいぶ印象が変わりましたね。やっとしっくりする形で落ち着きました。最初は4つ打ちが嘘っぽかったというか、自分の体に馴染んでないなっていう実感があったんですけど。やっと今回のバージョンで自分的にしっくり来ました。例えば海外の最新の音楽のトレンドとの距離の取り方って難しくて、自分からしたらどこか他人事に思えちゃうときがあるんですよね。他人事だからこそおもしろいと思うこともあるので、別にそれが悪いことではないんですが。でも、それが自分の知ってる福生の街のなかで鳴っていたり、実際にそれで踊ってる10代の女の子の姿を見ると、今の流行りのビートが自分の経験として接続される。見慣れた街で、こういう子たちが、このビートでこうやって踊ってるんだって見た瞬間つながる。あくまで未知のものであることには変わりはないんですが、自分とどれほど離れているのかの距離感すらもわからなかったものが、その距離感くらいは理解できようになる。それがおもしろかったです。

─そしてM⑩「Fiction Romance」。これはもう名曲。

VIDEO 最初はずっとボツにしてたんですよ。これも「熱い砂のルンバ」と同時期にあって、ラテンの上モノなんだけど、レゲエのリズムっていうのをやりたくて作ったんですけど、うまくできなくて一度ボツにしたんです。でも、アルバムを作るにあたって古い曲やボツにした曲でもアルバムにピースとしてはまるのがあるかもしてないからと思って聴き直してたら、この曲のデモが出てきて。再度組み立て直していったら、リードトラックにしたいぐらい気にいる曲になったんです。

─タイトルも、相当にVIDEOくんっぽい世界観ですよね。

VIDEO 高松にエマさん(エマーソン北村)とツアーで行ったときに、ライブ前に会場周辺を散歩してて見つけた言葉なんですよ。エマさんも、ツアー先に行くと街を歩くのが好きらしく、特別な観光名所に行くとかじゃなく、ただの住宅街で人の家の表札をひとつづつ眺めて「ああこういう苗字の人がこのへんには住んでるんだ」みたいなことを感じるだけでも楽しい、って話したら共感してくれて。そのツアーで、たまたまひとりで港を歩いてたら、「Fiction Romance」って落書きがあって。「ああすごい、ぼくの音楽性を表すような言葉だな」っていう気がして写真に撮ってたんですけど、いつかどこかで使えたらいいなと思ってて。それが、この曲ができたときに「ここじゃん!」って。

─メロディ、コード感が連れてってくれる至福感がすごいです。

VIDEO あとは途中でサンプリングしたモノローグですね。あのなかで映画と景色を語るくだりが、自分の考えと結構リンクするんです。そこで語られる言葉のなかに、僕が言いたいこともいろいろ集約されている。

─演奏面でも、角銅(真実)さんがマリンバで参加したり、映画のエンドロールみたいな演出になっています。

VIDEO アルバムにかかわったり、最近一緒にやった人たちが総出演みたいなエンディングになりました。ライヴをサポートしてくれてる思い出野郎の3人(高橋一、増田薫、松下源)とウッシーにも参加してもらったし、最近、僕が音楽を作るにあたって一番相談したり情報交換できる一人でもあるLUVRAW(鶴岡龍)さんにも参加してもらって。あと、マリンバをどうしても入れたかったんですよね。軽やかな転がるような音を置いてくような感じの。それで角銅さんにお願いして、大団円的なアレンジに落ち着きましたね。

─シンフォニー化してて、感動的なぐらいですよね。でも、別に音楽的なハーモニーとか約束事とかじゃなく、自由に積み重なってる感がいい。

VIDEO そうですね、サンプルネタを強引に切り貼りしながら作ったループなので、もともとコード感も変ですからね。合ってるのか合ってないのか自分でもいまだにわかってない。理論的におかしなことになってると思うんですけどね。でもそれがいいのかなと。

─こういう感じで盛り上がったらいいかもっていう、具体的なイメージはあったんですか?

VIDEO 具体的にはないですけどね。自分は何をサンプリングしたかとか意味を重要視するような曲作りが多い一方で、これは単純にメロディだけで気持ちを持ってかれちゃうのを作りたいなとは思ってました。

─そこに「Fiction Romance」って言葉のマジックが重なったと。今さら言うまでもないですけど、年齢を重ねた男女のみなさんが福生のハウスで踊るMVも最高でした。でも、ここで最高潮にいいムードを作っておいて、最後にシュッとM⑪「煙突」に戻るっていうエンディングに、僕はしびれました。

VIDEO 「Fiction Romance」と逆でもよかったなと思ったんですけど、でも最後は「煙突」にしました。

─20代で悶々としてたVIDEOくんがそのまま映し出された「煙突」をなぜ、今?

VIDEO このへたくそなギターをあえて録りなおさなかったのは、今の自分と昔の自分を分けて考えられたからというのはあります。10年も経っちゃえば、もう過去のレコードからサンプリングする感覚と自分のへたくそなギターをそのまま使うのも大差なくなってくる。むしろ、そこに徐々に違う意味がついてきたって感じがします。特になにも考えないで作った曲が、あの淡々とした煙突の映像もあいまって、ライヴでやるうちになんかすごく重要な曲になってきた感じを、実際に音源としてもやろうと思ったんです。ガラケーの着メロ機能で打ち込んだビートで始まった曲に、雪だるま式に、いろんな電子音とか念とか亡霊とか電波とか受信した様々なノイズが混線して、一気に昇華して、最後は火葬場の煙突を煙がのぼっていくイメージ。そもそも火葬場の煙突がそうであるように、煙突にはどこか死を感じるものがあるし、調べるとあの世とこの世のトンネル的な意味合いもあったりするそうです。サンタクロースが煙突から入ってくる設定も、あの世というか別の世界から煙突を通ってやってくるみたいなイメージですしね。煙突がお線香みたいにも見えるし。

─死の匂いといいつつ、あの曲には、むしろ“生きてる”って感じのエモさもあるんですよ。

VIDEO 大友良英さんがONJOでジム・オルークの「Eureka」(2005年)をカヴァーしているのですが、それがずっと大好きで、それもイメージしてました。あの曲も歌のメロディをカヒミカリイが歌っていて、いろんな楽器が重なってきて、小さなメロディがいろんな楽器の音に埋もれて、でも、ノイズの海の中でメロディだけはずっと続いてる感じ。そこを「煙突」ではすごくやりたかったですけど、難しいっすね。作ってから時間がありすぎて、他人に言われた話だったり、自分が思ったことだったりが曲にこびりつきすぎちゃってる。最後は全部ぐちゃぐちゃなノイズの海にメロディが消えてくように、意味も一気にパッと煙になって昇華するみたいなことを音で表現したかったんです。

─でも、このアルバムを聴く人は、またここから「On The Air」にリピートして何回も聴くでしょう。

VIDEO 安田さんもライナーでそう書いてくれていましたね。最後ノイズに覆われて一曲目に戻る。そのノイズから「On The Air」のメロディが浮かび上がってくる。

─実質的にVIDEOTAPEMUSICとして初めて作ったような曲をこうして大ラスに持ってきてるわけだから、これはある意味、“第1期VIDEOTAPEMUSIC”のひとつの結だったとも思えるんですよね。僕らはもうしばらくはこのアルバムをすごく楽しむけど、逆にいうとこの次にVIDEOくんが作るものがもっと楽しみになってもいます。

VIDEO 自分のなかの業みたいなのは全部これで振り落とした、みたいな。全部を煙突で燃やしたぐらいの感じありますね。これをやらないと次に行けないみたいな気持ちだし、全部とりあえずやりきったかな。

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─話はちょっとずれるかもしれないけど、今年公開されたクリストファー・ノーラン監督の映画『ダンケルク』が僕はすごく好きなんですよ。『インターステラー』と基本構造が一緒というか、SFに見えないけど、『ダンケルク』もじつは時間をテーマにしたSFだと思ったんです。フランスからイギリス兵が撤退するっていう歴史的事実があって、その時間軸のなかで限られた時間を扱うんだけど、そのなかで、「このシーンさっきあったよ」みたいのが、あとのほうのシーンで視点を変えて出てくる。普通の映画なら“回想”にするところをそうしてないから、最初は観客は意味がわかんないんですよ。でもその繰り返しをすることで、徐々にその時間のズレがいろんなところで連鎖していって、最終的にはすべての時間が一緒になる。そういう時間や過去と現在の縮尺を変えるおもしろさが、VIDEOくんの作る映像や音楽にもありますよね。

VIDEO なるほど。

─「Sultry Night Slow」のライヴ映像にしても、いきなりセロニアス・モンクが出てきて「気が変になりそうだ」とか言ったりしますよね? ああいうぶっこみ方に接すると、いつも僕は時空がちょっと狂うんですよ。でも、VIDEOくんの場合は過去や現在が一見無軌道に放り込まれるんだけど、すべてのサンプルには理由があって、最終的にはひとつの表現として成立する。そこで『ダンケルク』を思い出したんですよ。

VIDEO 人の記憶や歴史も断片的で無関係な時間のつぎはぎだらけみたいなものですからね。もともと僕は記録芸術ってものに惹かれて、映像の延長で音を扱い始めたっていうのはあるし、そこをおもしろがって掘り下げてる感じはずっとあります。自分にとっても、過去を記録したり思い出したりする装置みたいなところがあるんで。

─とはいえ、それをアーティスティックなインスタレーションとか、ドキュメンタリー的なストイックさで提示しているわけでもなく、あくまでポップ・ミュージックに着地しているのがじつはすごくて。

VIDEO そうですね。そこは自分でも難しいところですけどね。もっとわかりやすい提示の仕方はあると思うんですけど、今みたいな曲にしたほうが音楽的な飛距離は高い。僕の考えは100%伝わらないかもしれないけど、広く浅く届くんです(笑)

─遠くまで、でもある。

VIDEO そう、遠くまで。こういう曲にしてしまったほうが遠くまで届く感じがしておもしろいなって考えるんです。「映像作品で出さないのか?」みたいに言われることもあるんですけど、やっぱり僕は3~4分の音楽っていうわかりやすいフォーマットの魅力って大きいと思います。DJでかかったり、ラジオでかかったり、自分の予期しないところに行く可能性が高いほうがおもしろい。具体的に説明して伝えようと思えばそういうやり方もあるかもしれないですけど、ぜんぜん予期しないところまで飛んで行って、意図通りに伝わらなかったとしても、予期しない反応をもらえるほうがいい。

─あと変な意味で現代的だなって思うのは、VIDEOくんは坂本慎太郎さんともCrazy Ken Bandとも仕事ができたし、素晴らしいと思うんですけど、その両方でも早足にならずにちゃんと手順を踏めた良さはありましたね。パッとネットで拡散されて、「あの人おもしろい、やろう」みたいな軽々しさにはならなかった。

VIDEO そうですね。人とやるときは、わりと僕も気にするし、そこは慎重でいたいです。というか単純に人見知りしがちなんで。

─VIDEOTAPEMUSICには、実際ライヴに足を運んで見てもらったことで得られる体験がある、というおもしろさですよね。現代的なテクノロジーを駆使して音楽を作っていながらも、ある面では反現代な。

VIDEO たぶん、僕はそういう性格だと思うんですよ。ネットで出会ってコラボレーションとかピンとこないんです。目の前にあることで一生懸命だし、目の前にあるものに興味があるので。それこそ、さっき「Her Favarote Moments」の話に出た、最新のアメリカのヒットとの距離の取り方も全然わからなかったのが、自分の知ってる福生の景色の中で踊ってる子たちを見てなんとなくわかったように、人間関係もそういう感じでいたいなみたいなのがあります。

─「それじゃ時間がかかるよ」って言われるかもしれないけど、時間がかかることの大事さを結構みんな忘れかけてるから。時間はかけなきゃいけないもんだっていう部分を問うてくれてる部分はあると思います。扱われてる時間の尊さというか、距離感の詰め方の誠実さみたいなのがちゃんとあるっていうことだと思うんですけどね。

VIDEO あとは、僕が根気強いってことかもしれません。ずっとこの手法でやってきて、飽きなくてよかった(笑)。10年以上はやっていますからね。一個覚えちゃうとずっとそればかりやっちゃう。ひとつお気に入りの食べ物があると、毎日そればっかり食べちゃう感じなんで。ずっとやってることで、ずっとやっていないとたどり着かない境地に行けたらいいなと。

LIVE

2017/10/26(木)19:30 START
VIDEOTAPEMUSIC『ON THE AIR』発売記念インストアライブ&サイン会
コピス吉祥寺 A館2F HMV record shop店内イベントスペース

【イベント内容】
ライブ&サイン会


2017/11/23(木・祝)
“ON THE AIR” Release One Man Show
モーションブルー横浜

OPEN 18:00 / START 19:00
前売 4,200円 (ドリンク代別途要)
チケット一般発売日 9月16日 (土)


2017/12/27(水)
“ON THE AIR” Release One Man Show
キネマ倶楽部

OPEN 18:30 / START 19:30
前売 3,200円 (ドリンク代別途要)
チケット一般発売日 9月16日 (土)


この他のライブ情報は、カクバリズムのライブスケジュールをご覧ください。