Ampersands - mei ehara

2020.5.13 wed. on sale

Release Info

Ampersands - mei ehara

発売日:2020年5月13日
品番:DDCK-1067
価格:2,000円(税別)

Ampersands

CD
  • 01. 昼間から夜
  • 02. 歌の中で
  • 03. 優しく
  • 04. どちらにピントを
  • 05. 不確か
  • 06. ギャンブル
  • 07. 似合ってくる
  • 08. 群れになって
  • 09. 最初の日は
  • 10. 鉄の抜け殻

Ampersands

12インチアナログ

発売日:2020年5月13日
品番:KAKU-116
価格:3,000円(税別)

SIDE A 1. 昼間から夜/2. 歌の中で/3. 優しく/4. どちらにピントを/5. 不確か
SIDE B 1. ギャンブル/2. 似合ってくる/3. 群れになって/4. 最初の日は/5. 鉄の抜け殻

『昼間から夜』

7インチレコード

発売日:2020年4月10日
品番:KAKU-115
価格:1,000円(税別)

SIDE A 昼間から夜
SIDE B I Can’t Go for That


Music Video


Interview

訊き手/構成:柴崎祐二

 私がmei eharaという音楽家を初めて認識したのは、今から7年前、まだmay.e名義で活動していた2013年ころだったと思う。都市部を中心として勃興したインディー文化が成熟に向かいつつある中で現れた宅録ポップスの異才たる彼女は、その自主制作作品から流れ出る不敵なまでの「自分の好きなことだけを演っている」姿勢と、何よりも素晴らしいオリジナル楽曲で、またたく間にシーン内外で特異な存在感を放つこととなっていった。その後2017年にはキセルの辻元豪文をプロデュースに迎えたファーストアルバムをカクバリズムからリリース、豊穣と瑞々しさの混じる独自の音楽世界を聴かせてくれた。
 そこから早2年半いよいよ発表される待望のセカンドアルバム『Ampersands』へたどり着くにあたっては、決して順風満帆とはいえない様々な曲折を経験したという。ミュージシャンとしてのステップアップへの道のりの中、一人の生活人として経ることになった易からぬ日々……。これまで、「シンガーソングライター」という一般的なイメージをすり抜けるように活動してきた彼女は、本作によって初めて「私以外に」語りかける「自分の歌」を引き寄せた。
 鳥居真道(ギター)、Coff(ベース)、浜公氣(ドラム)、沼澤成毅(キーボード)という個性豊かな面々によるバンドサウンドを得た本作は、ミニマルでいてスポンテニアスなアンサンブルとともに、mei eharaという一人の音楽家が、この世界とどのように対峙してきたのか、あるいはまた、今どのような「強さ」を持って時代の中に生きようとしているのかを、聴くもの全てへ強く訴えかけてくる。「私の音楽にメッセージはない」という彼女だが、その音楽が守られるためにも、懸命に音楽を奏で抜こうとする。メロウで、しなやかで、澄みやか。だからこそ強い。こんな音楽がずっと鳴り続けることができる世界なら、それは間違いなく素敵な世界に違いないと思う。


――やっぱり最近はずっと家ですか?

mei ehara(以下:m):全然出てないです。過敏になりすぎているわけじゃないとは思うんですけど、外出は買い物しに週一回スーパーに行くくらいで……。幸い家でやる仕事も結構あったので。

――出演予定だったライブもなくなった?

m:全部なくなりました。うーん、私…今回のリリースのこと…これから話をするのにアレなんですけど(笑)、結構ぼんやりしてて……。

――世の中の雰囲気がどんどん変わっていくから?

m:アルバムの制作が2月の頭には全て完了していて、そこからリリースまで間があって、その上コロナの騒動があって……。普通だったら完成した後に対面インタビューやラジオ収録があったり、色々とやることが多くて目まぐるしくしながらリリースを迎えると思うんですが、今回はやっぱりいつもと雰囲気が違いますよね。レコードショップも休業を余儀なくされていますし。

――リリースへ突入する実感がない?

m:そうですね。だから何を喋っていいかよくわからなくて……(笑)。

――こういう特殊な時期において表現者がどういう心境なのかということをじっくりきけるのは貴重でもあると思いますよ。

m:暗い話ばかりにならなければいいけど。

――まず時系列的な話から。前作アルバム『Sway』を2017年にリリースして以降を振り返ってみて、どんな歳月でしたか?

m:ファーストを出した翌年の4月に渋谷のWWWで「カンバセイション」という自主企画ライブをやることになって。アルバムをキセルの(辻村)豪文さんにプロデュースしていただいたので、キセルを迎えたバンド編成でやってみるという案もあったんですけど、カクバリズムの方々と話し合って、私が主体になって次の作品を意識しながら自分の音楽を模索していくべきだと思って、改めてバンドメンバーを探すことにしたんです。それで、声をかけたのがベースに思い出野郎Aチームの長岡(智顕)通称「長ピー」と、ドラムにTV NOT JANUARYやhei tanakaの池ちゃん(池田俊彦)でした。

――そのときのトリオ編成ライブ、すごく良かったです。カチッとハマったアンサンブルで、とても新編成と思えなかった記憶があります。

m:アレンジを含めて根本的な部分から一緒に考えてくれて。二人とも性格が最高ですし、急速に仲良くなって、ほぼ毎回リハの後朝まで飲んでました(笑)。長ピーはベーシストですけど、ギターもすごくうまくて、私のいい加減な独学ギターをちゃんと指導してくれました。「そのコードだとこの指の位置が正しいよ」とか(笑)。過去にバンドを組んだことはあったけど、主体的に自分の曲をバンドアレンジしていくスキルがまったくなかったから、それを二人がカヴァーしてくれました。池ちゃんも、私のギターが頼りないのでドラムを叩きながらキーボードを弾くという荒技にチャレンジしてくれましたし。

――基礎連的な作業。

m:そうです。だけど、技量が不足していることをより実感して、二人にサポートしてもらいながら向上しようとしていたから、段々と私のギター練習やファーストアルバムの曲のトリオ用リアレンジに時間を充てることになって、当初考えていた具体的な曲作りの方向から徐々に逸れていってしまって。次々ライブも決まったし、良いライブをしなくちゃ、上手くならなきゃと必死で。だから、タッツ(カクバリズムの担当マネージャー)や社長も「いつになったら次回作ができるのか」と心配していました。

――そんなことが。

m:三人で完成させることができた曲はちゃんとあって、7inch(『最初の日は/午後には残って』)としてリリースすることはできましたけど。

――ファーストアルバムのふくよかなアレンジからシャープさを感じるものへ変化していて驚いた記憶があります。それも日々の鍛錬のたまもの?

m:うん、そうだと思いますね。

――その後、2019年に出したカセット作品はうってかわって弾き語りによるものでした。これはなぜ?

m:これに関してはトリオの制作とは別の流れから出てきたものですね。個人的に引っ越しを挟んだり、落ち着かない日々を送っていたんですけど、さすがにアルバムを作らなければと思いながらもなかなか曲ができない状況がその後も続いていたんです。曲作りモードに戻れなくなっていて。ライブの物販でもずっと「Sway」一枚で回っていたので、早くライブと音源のアレンジが一致している新しいものを出したいとは思っていたんですが、焦れば焦るほどうまくいかなかったんです。
一方で、長ピーも池ちゃんも自分達のバンドのことが忙しくなって、私一人の弾き語りでライブをすることも多くなっていたから、じゃあライブの現場でお客さんに手に取ってもらいやすいカセットの形態で弾き語り作品を出してみようと思ったんです。自宅で録音もできるし、とりあえず新しく曲を作ることで今までの作曲の勘を取り戻したいというのもありました。

――なるほど。

m:一旦出揃って、「よしこれでリリースできるぞ」と思ったんですけど、少し時間を置いて冷静に聴いてみたらトリオ編成のときの名残が抜けていなくて、なんというか、弾き語りとしては心地よくないものになってしまっている気がして、全部ボツにしたんです。

――そうだったんですね……。

m:そのときちょうどパソコンが壊れてデータが飛んでしまったので、作り直さざるを得ないっていうのもありました。

――うわ、それはショック。

m:けど今思えば、それまでモヤモヤと引きずっていたモードを断ち切って、新しいパソコンを手に入れたことで奮起したっていうのもあるかもしれません。その意味では良かったかも。そこからは今みたいにほとんど家から出ずに猛然と2ヶ月で300曲くらい作っていって……。

――300曲!

m:とにかく作りまくる日々ですね。かつての勘を取り戻すためにもひたすら……。その中で良いと思えた曲のアレンジを練り上げていって、さらにその中から残ったものを集めたのが、あのカセットテープですね。

――そして今回のアルバムの曲作りへとつながっていった?

m:そうですね。

――新たに書き下ろした曲はどれでしょう?

m:7inchに入れた「最初の日は」とカセットにいれた「不確か」、もう何年も前に作った「ギャンブル」以外は全部書きお下ろしです。その3曲もアレンジを変えた新しいバージョンを収録してます。

――今作『Ampersands』はバンド編成での録音ですが、以前のトリオ編成じゃなくて、みんな新しいメンバーになっていますね。

m:最初は元のトリオに補う形でメンバーを増やすことを考えていたんですけど……タッツとバンド編成について話し合った時、「メンバーと仲良くなりすぎ」と言われたことが引っかかっていて。仲良くなったことは悪いことではないと思うんですが、たしかにあまりに近しい関係になったことでメリハリをなくしている部分があったと思ったんです。ちょうど二人も忙しくなっていましたし、セカンドアルバムの制作から編成を変えることにしました。

――新メンバーはどういった基準で声を掛けていったんでしょうか?

m:ギターの鳥居(真通)くんは、昔から友達ですし、トリプルファイヤーをはじめ彼のプレイが大好きだったので、実は前作の『Sway』を作る以前にバンドに参加してほしいと思って声をかけていたんです。でも、その後もっと細かいことをタッツと話し合っていくうち、豪文さんにプロデュースをしていただくことになったので、「いつか必ず!」と伝えていたんです。今回念願が叶って参加してもらいました。
ドラムの浜(公氣)くんは、『Sway』を聴いて、一緒にやりたいと思ってくださっていたんです。どついたるねんの活動以外にも、色々とサポート活動をしているのでタイミングが悪いかなと思ったんですが、快諾してくれました。それまで接点はなかったんですが、浜さんのプレイが素晴らしいことは知っていましたし、一緒に音楽をやりたいと思ってくれる人に入ってもらうのは良いことだと思ったので。Coffくんは、私が王舟くんや藤森純さんと一緒に運営している「DONCAMATIQ」というアーティストの機材や宅録環境を取材するインタビュープロジェクトに登場してくれたことをきっかけに知り合いました。色々話していたら、私と同い年で、音楽に対する考え方や貪欲なところが素敵だなと思って。それで、ベース候補として真っ先に声を掛けさせてもらいました。

――加えて、キーボードを交えているのが今回の編成の特徴ですね。

m:はじめは鍵盤を誰にお願いしたいかなかなか思いつかなくて。知り合いにもキーボーディストの方は沢山いるんですけど、私自身の未熟さもあって各奏者ごとの持ち味や特色を分析できなくて。そんな中で、ちょうど元トリオの二人にもちゃんと別メンバーで制作をしようと思っていることを伝えなくちゃと思って私から誘って飲みに行ったことがあったんです。

――おお、二人はどんな反応を?

m:「meiちゃんがこれからもっとスキルアップしていくためにはその方がいいと薄々俺達も思っていたんだ」って言ってくれて……。

――やさしい……。

m:本当にありがたい……で、長ピーがその場で「キーボードだったら沼澤(成毅)が絶対に良いと思う」と推薦してくれたんです。長ピーと彼は大学の先輩後輩関係でもあって、一時期一緒に住んでいてよく名前は聞いていましたし、思い出野郎の「Share The Light」でもサポートしています。沼澤くんをよくわかっている長ピーの紹介なら間違いないと思いました。

――僕がこのメンバーラインナップをみて最初に思ったのは、共通のテイストとして、ソウルやコンテンポラリーなR&Bとか、そういったプレイを得意としているミュージシャン達だなということでした。meiさんとしても今作はそういう方向を目指していたんですか?

m:特にそこを目指していたということではないです。私もソウル系の音楽は好きだから、共通する趣味としてそういうのがあるのはいいかなくらいで。メンバーは、第一に「引き出しの多そうな人」という基準で声掛けさせてもらいました。あとは、私は人見知りなのでコミュニケーション能力が高そうというところを重視して……(笑)。

――今回は前作と違ってセルフプロデュースとなっていますね。

m:ファーストを出した後、セカンドをどうするか角張さんと話したとき「もう一回プロデュースされるのもいいと思うよ」と言ってくださったんですけど、自分は負けず嫌いなところもあって、今回はトリオやソロの作品も経たし、新しいメンバー達と一緒に、密にコミュニケーションをとりながら自分たちで作りたいと思っていました。初対面同士のメンバーも多いし、そのあたりの組み合わせなども含めて、監督をするのような、そういうセルフプロデュースだったと思います。

――アレンジ作業はどんな風に進めていったんでしょうか?

m:ある程度バンドサウンドにしたデモを自宅で作って、それをみんなに渡して進めていきました。早い段階からリハーサルに入って、どんどん合わせて正解を探すやり方です。でも、コードなどもかなり自己流の書き方をしているので、主に沼澤くんが私が伝えたいことを拾って「これは何コードだと思います」というふうに他メンバーに共有してくれていました。
曲によっては、ベースラインなどまでかなり作り込んだものもありましたが、あくまでみんなのアイデアを取り入れながら作り上げていきたいと思っていたので、デモはざっくりとしたおおまかなイメージ共有ができれば良いと思って渡していましたね。「Sway」でも、豪文さんにはある程度バンドサウンドに近いデモを作って渡していて。豪文さんとやり取りをする中で、自分が無知であることを実感して、落ち込むわけでもなく、私が作った曲に新しい観点が加わって、素晴らしいものになっていく過程にすごくワクワクして、喜びを感じました。だから、前回のトリオも今回の新バンドも、私が全てを指示することは避けたいと思っていました。逐一、「これってどう思う?」と4人に尋ねながら進めていきました。みんな気を使わず正直に言ってくれましたし、「心配しなくてもいいよ」と安心させてくれたりもしたので心強かったです。

――ミュージシャンを雇ったっていう感覚じゃなくて、バンドメンバーと一緒に作ったという感じ?

m:そうです。気持ち的には新しいバンドを組んだと思っています。

――そんな中で、全体に感じるファンクっぽい感覚とかソウル的なニュアンスはどこからやってきたんでしょうかね?

m:もしかしたら、元々私が作っていった曲にそういう要素が入り込んでいたのかもしれないですね。キッズソウルを集めていたりもしたので、アレンジ面でもそういう音楽に引っ張られた部分はあるかもしれません。デモの要素はかなり残したので、それにひっぱられつつ、みんなの持ち味が加算された結果、こういうテイストの音楽になっていったのかなと思います。

――一曲目の「昼間から夜」は意外にもレゲエアレンジですね。

m:あれはデモの段階からレゲエを意識して作りました。

――今回はそれぞれの曲がリズムへ対してより一層コンシャスになった印象があります。

m:たしかにそうかもしれないですね。というのも今回の曲はほぼ全てリズムパターンから作っていきましたし。

――「ギャンブル」のようにボッサリズムのものもあったり、曲ごとのリズム面でのキャラクター分けが鮮明で面白いです。なんというか……今回は骨組みの部分からメンバー同士でしっかり組み上げていった感じが聴こえてきます。

m:全員が納得したら前に進んでいくようにはしていました。私は音楽知識や音楽言語みたいなものがかなり乏しいので、細かいニュアンスを伝えることに苦労しました。イメージを感情的な表現とか比喩で伝えることが多かったです。例えば、「ここはイライラしている感じのギターにしてほしい」とか(笑)。「この曲はこういう曲で」みたいなイメージを文章でまとめたり。私以外のメンバーは知識も豊かなので、全員が解読するのに苦戦していた気がします。それでも、結果的に理論や知識で話し合う以外の面白さは出たかもしれません。全員ロマンチストな人だと思うので。

――メンバーのみんなもそういうイメージに対して敏感に反応してくれた、と。

m:そうですね。中でも特にCoffくんがロマンチストだったと思います。感情的な表現を「これってこういう音のことかな?」と汲み取って探してくれたり提案してくれたり。彼を介してみんなにイメージが伝わっていったっていうのはあるかもしれない。

――レコーディングは基本みんなで「せーの」で演奏して録る形?

m:ほぼそうですね。今回、主に三鷹台にあるecho and cloud studioというスタジオをで録音したんですが、ドラムのブース以外はみんな同じ空間で演奏しました。余計な音が入らないように、みんな演奏の時以外はなるべく音を立てないようにじっとしてました。ダビングもしましたけど、環境的にも今回は特にバンド感が出ているかなと思いますね。

――meiさんの歌声もやや変化したように聴こえました。

m:変えようと思って意識したつもりはないんですけど、トリオ含め、この数年改めてバンド編成でのライブをやった影響はあると思います。はじめの内は自分のことに必死で周りの音も自分の声もまったく聞こえてなくて(笑)。場数を重ねるごとに鍛えられた結果、やっとバンド全体を聞く余裕ができて、多少歌い方も変わったかもしれないですね。あとは単純に声量が出るようになったのかなとは思います。

――振りしぼっているとかじゃなくて、バンド全体の中にあってすごくナチュラルに声が通っている気がしました。

m:多分声質自体も変わったかもしれない。だいぶ低くなった気がします。タバコ吸いすぎかも(笑)

――今回、エンジニアはどなたが?

m:ミツメや王舟くんとかをやっている田中章義くんです。

――めちゃいい音。録りもミックスも素晴らしいな、と思いました。ウェルメイドでありながら、いい意味で竹を割ったような感覚もあって。「バンドっぽさ」はそういう技にも支えられている感じがします。

m:たしかに。スタジオ自体の響きが結構癖のある感じだったので、ドラムの音とかも相当苦戦しながら調整してくださったみたいです。音響面に関しては、プロである章義くんに基本おまかせですね。

――『Ampersands』というアルバムタイトルについて訊かせてください。これ、初めて知ったんですけど、「&」記号のことなんですね。

m:そうです。実は、当初は違うタイトルを考えていたんです。シミとか傷痕という意味の「Blotch」というのが候補で。でも、タッツがその語について調べてくれて、ネイティブ的にはあまりいい意味じゃないってことがわかって。

――そうだったんですね。

m:で、悩みつつ出てきたのが『Ampersands』でした。

――「&」って言葉自体に固有の意味はないけど、記号としては機能して何かを接続していく……そう思うと面白い語ですよね。

m:アルバムを作ろうと思って以来、自然と一つのテーマで曲を書いていく流れになってきて。ここ数年間で、昔から仲の良かった友達が地元に帰って行ったり、仕事で地方へ引っ越したり、「この人とは一生友達なんだろうな」って思っていた人と疎遠になって突然決別したり。人間関係に色々な変化が起きて、年齢もあるので当然の変化かもしれないと思いつつ、精神的には辛いこともありました。ファーストアルバムを出した後、角張さんから「meiちゃんの曲は一人称が多くて他人の存在を感じないから、誰かを巻き込んだ歌も作ってみたらどう?」と言われて。その言葉が印象に残っていたこともあり、今までとは異なって、ひとりぼっちで日記的な曲とは違った曲が自然とできました。

――自分「と」という意味での「&」をテーマにした曲。

m:そうです。人との関係に悩んで傷ついたことも傷つけたこともあって後悔も多い。けど、その人達と過ごした時間はどう頑張っても絶対に忘れられませんし、一生どこかの節目節目で思い出すと思うんです。良かっとことも悪かったことも。

――単純に前向きな意味での「つながり」だけではない複層的なニュアンスが込められている?

m:そうですね。現代って、昔からの知り合いでも直接会うことが少なくなっていく反面、近況はSNSなどを介して常に知っているという状況がありますよね?それで、人と人との関係性や付き合い方を不可解に感じることは多いので、人間関係を軸に曲作りを進めていったのは自然な流れだったと思います。

――今まで一人称の歌ばかりだったというのは、他人にあまり興味がなかったから……?

m:どうなんだろう。自分の人生のどの時点を切り取っても周りに人がいるということに変わりはないんですが、もしかしたら音楽に対して自己中心的だったのかもしれないですね。日記的に、自分自身を主人公にした物語にしていたと思います。今回はこれまで日記だった音楽制作に変化が起きたと思います。外に向けて、自分以外の人に向かうようになった。

――歌詞に人へ向けてのメッセージを載せるようになった、ということ?

m:積極的なメッセージという感じでもなくて……今も昔も、私の曲を聴いた方々に対して何かを考え方やメッセージを押し付けたい気持ちがまったくなくて。むしろ理解されるのを避けるようにわかりづらく書きたいと思っています。かといって今回は自分の内部に閉じている感じではない。例えるなら、講談みたいな感じですかね(笑)。

――歌を歌っているとき、「この言葉は自分の奥底から出てきているものだ」という感覚はありますか?

m:よく考えてみれば、今回は無意識に、外へ向けた言葉としてある程度理解できる歌詞になるよう努めたかもしれません。今まで作ってきた曲はあくまで醸し出すことや空気感が主体で、言葉は補助的な役割だったように思います。今回一変して、「歌っぽくなってきた」部分があると思います。

――歌っている人格と歌詞を紡ぐ人格が合致している?

m:そうかもしれません。「私の歌(できごと)を聞いてほしい」ということではないですが、「こんなお話があったとさ」という具合に、物語と映像を想像できるような歌ということを意識し始めていると思います。もちろん各々の同時の想像ができる余地を残しつつ。

――少し話を変えて、生活の中で、「今とても美しい瞬間だなあ」って感じることがあるとしたらどんなシチュエーションでしょうか?

m:うーん、最近の唯一の楽しみといえば、家の窓から柿の木を見ることですかね(笑)。前に住んでいた家からもベランダを開けたら柿の木を見ることができたんですが、今の家もどこを見渡しても周りに柿の木があって。春の初めに若い葉っぱがポツポツ生えてきたなあと思っていたらあっという間に大きくなって……綺麗な緑。なんだろう、物言わぬ存在に生命力が溢れている感じに圧倒されるというか。

――そういう花鳥風月的なものへの関心は昔からあるんですか?

m:好きですね。そういうものを見て「綺麗だなあ」っていうのもあるけど、「圧倒されたい」っていう気持ちが強いんだと思います。私、毎年一人で何か巨大な物……富士山とか大きな秘仏とかを見に行くっていう習慣があるんですけど(笑)、今年はレコーディングも忙しかったし世の中がこんなことになってしまったしで行けてなくて。だから今は、身近なところにある大きなもの、柿の木を見るのが楽しみ。

――ある意味で、見ているだけの柿の木とか、自然物である富士山とか物言わぬ秘仏って、人間が後天的にそこへ意味を付与しているだけで、経済的/実利的な尺度の中ではある種無意味なものでもありますよね。そういう、無意味なのに存在するものがあるとことにすごく惹かれるんでしょうかね。

m:そうだと思います。

――「無意味なもの」を観る、聴くと心が安らぐ……?意味の氾濫から一旦降りる瞬間、みたいな。

m:多分私はそういう傾向が強いんだと思います。

――ジャケットについて訊かせてください。今回は米国のアーティスト、ジェイムス・アーマー氏の絵を使用していますね。どんな経緯で彼の絵を使うことになったんでしょう?

m:去年の暮れにかけて吉祥寺で彼の作品展があって。たまたまネットで個展の開催を知って、レコーディング終わりに滑り込みで見に行くことができたんです。それで、今回のアルバムのジャケットをどうするか色々考えていたとき、彼の絵のことを思い出して。どうせ断られるか返事がこないだろうと思ったんですが、メールをしてみたら即快諾してくれて、しかも描き下ろしてくれることになって。すごく嬉しかったですね。

――彼の絵はどんなところが魅力なんでしょう?

m:一つの絵の中に複数の人物を描いている作品が多いんですが、その人物達がどれも仲が良さそうにも見えるし、仲が悪そうにも見えるみたいな感じがすごく面白いなあと思っていて。好き勝手にやっているようにも見えるし、協力しあっているようにも見える。人物の表情がシンプルだからというのもあると思うんですけど、冷たい感じもあれば、明るい感じもある。その両面性がいいなと思います。

――今回のジャケットの絵も人物自体も多様で……しかも三密状態ですね。

m:たしかに(笑)

――マスゲーム的に統制されているわけでもなく、かといって断絶しているわけでもなく……なんというか、現代的な社会の一つのモデルのようにも見えてきます。さっき話してくれたアルバムタイトルのテーマにも通じるようにも感じますね。

m:面白いですよね。一見何にも考えてなさそうで、すごく考えられているような気もしてくる絵。すごくシンプルなのに。それと、色彩も外国っぽさもありながら、どこか日本ぽくもあるなって思います。芹沢銈介や柚木沙弥郎の仕事っぽい感じもして。本人に訊いたら日本の美術も好きらしく、やっぱりそうなんだ!と。

――そういったアートへの関心や実践をはじめ、自ら文章を書いたり、音楽以外にもmeiさんは色々な表現を続けてきたと思うんですが、変わらずそういったこともやっていこうと思っていますか?

m:もちろんです。今年は自分が主宰している文藝誌『園』の第3号を出したいと思って既に打ち合わせを開始していたんですけど、各所取材にも行けない今の状況では制作を続けるのは厳しいということで今年を制作を見送ることになったんですが、一方で、井手健介と母船の新しいアルバムが出るのにあたってアー写とかジャケ写やトレイラー映像とかを手掛けることになって色々と作業をすることも多かったので、ありがたいことにその辺りのクリエイティブな欲求は満たされていますね。

――音楽含め、一連の活動は自分の中で輪としてつながっている感覚ですか?

m:そうかもしれないですね。ただメインは音楽だと思います。音楽で消化したいと思ってもできないことも多いですし、そういうものは別の手段で表現したりします。純粋に音楽とは異なる制作をしたい場合ももちろんあります。

――アウトプットのチャンネルは違うかもしれないけど、奥底のタンクみたいな部分はつながっているという感覚なんですかね?今は音楽というチャンネルが主に活性化している、みたいな。

m:そう思います。とにかく今はもう早いところリリースしちゃいたい……(笑)。ずーっと家にいると妙にソワソワしちゃって。完成してからリリースまでが長すぎる!もう次の作品をレコーディングしたい。

――アルバム発売にあわせてmeiさんMCのネットラジオ「Radio あんぱさんど」も始めたみたいですね。

m:自由に動けなくなると情報発信の機会も限られてくるし、これはもう自分で発信するしかないと思ったので。それと、私も何か役に立てることは是非していきたい気持ちがあるから、「自分のお店が今こういう厳しい状況だ」とか、具体的に困っているみなさんが少しでも情報を発信して支援者につながる役に立てるかもしれないと思ってメッセージを募集しているます。実際に先日いただいて、紹介したところです。

――今いろいろな人の声がオープンに流れていくる個人ラジオって、それ特有の魅力がありますよね。

m:そうですね。例えばZOOM飲み会とか、画面を見ていなくちゃいけない映像配信が苦手な方っていると思います。私もちょっと苦手で。なんとなく人の気配を感じたい方々もいると思います。昨日も気仙沼に住んでいる友達とスカイプをしたら、テレビを観るのはしんどいし、LINEを打つのもSNSを見るのもしんどい、だからラジオ聴いていると言っていて。ささやかでも楽しめるものができればと思ってます。

――インタビューが始まったときは後ろ向きな感じでどうしようと思ってしまったけど(笑)、最終的にポジティブな話がきけてよかったです。

m:(笑)。私も29歳ですし、これから先の未来世界もどうなるかわからないですよね。やれること、やりたいことを日々しっかりと考えていかなくちゃいけないと強く思ってます。それこそ自活と創作のバランスもそうですし。今回のアルバムを作り始めるときもそうだったけど、ある程度追い込まれる状況に置かれるとかえって奮起するところがあるので、今はやれることをどんどんやっていこうと思っています。

(訊き手/構成:柴崎祐二)

Profile

学生時代、自主映画のBGM制作のため宅録を始める。 その後、歌唱を入れた音楽制作に移行。自主制作を経て2017年11月カクバリズムより1stAL「Sway」を発売。音楽活動の他、文藝誌「園」主宰、インタビュープロジェクト「DONCAMATIQ」、アーティスト写真の撮影やデザインなどの制作活動も行う。バンド編成とアコースティックの自主企画ライブイベント「カンバセイション」「間(あいだ)」を開始し、2018年夏には、FUJI ROCK FESTIVAL’18に出演。その後も7inchシングル「最初の日は/午後には残って」をリリース、2019年夏にはデモ音源集カセットプロジェクトを開始、他アーティストの楽曲にゲストボーカルで参加するなど、活動を続けている。

http://eharamei.com