キセル『明るい幻』
発売日:2014年12月3日(水)
価格:2,685円+税
品番:DDCK-1040
01. 時をはなれて
02. 夏の子供
03. 君をみた
04. 覚めないの
05. 花に変わる
06. そこにいる
07. ミナスの夢
08. たまにはね
09. 今日のすべて
10. 同じではない
11. 絵の中で
12. 空の上
13. 声だけ聴こえる
参加ミュージシャン:
エマーソン北村、野村卓史、北山ゆう子
千住宗臣、武嶋聡、滝本尚史、竹内由佳
旧譜キャンペーン
(「magic hour」「凪」「SUKIMA MUSICS」DVD「野音でキセル」を購入のお客様)
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待たされた。いや、待ったという気がしない。
キセル、4年半ぶりとなる新作『明るい幻』を、それほどひさびさだと感じないのはなぜだろう?
レアトラック的なベスト・アルバム『SUKIMA MUSIC』のリリース(2011年6月)、日比谷野外音楽堂でのワンマン・ライヴ(2013年6月1日)、渋谷AXでのキセル15周年ライヴ(2014年5月18日)などが節目節目にあったからだろうか? もちろん、その間も長く休むことはせず、自分たちのペースでライヴを行ってきたキセルの日々があるということは大きい。もはや、レコーディング、リリース、ツアーの単調な繰り返しには当てはまらないレベルで、キセルの音楽はファンの毎日に染み込んでいたのだと思う。
だが、だからこそ、新作に至る道のりは、シンプルでストレートにはいかなかった。3・11をきっかけに書かれ、ライヴでも繰り返し演奏されてきた新曲「覚めないの」そして「今日のすべて」が、次作の軸になるだろうという予感はあった。だが、二人が考えていったのは、起きてしまったことがおぼろげになり、やり場のない感情がないがしろにされていきそうになる日々に、自分たちの音楽が、何をどうやって聴き手に伝え、他人の人生にどう寄り添えるかだったのだと思う。
歌詞が難産だと伝え聞いていた新作から「時をはなれて」がようやく完成したと聞き、送られてきた音源を聴いたとき、心の結び目がふわっとほどける感覚があった。「到達点」とか「新境地」という言葉ではうまく言い表せないが、今思っていることを、この先にある世界や人たちに受け渡す力を感じた。あたらしくて、とても身近な世界。僕は『明るい幻』にまつわるふたりの思いを聞きたいと、今までよりもっと強く思ったのだ。
──前作『凪』から4年半。新作『明るい幻』ようやくの完成、まずはおめでとうございます! 去年6月の日比谷野音ワンマン(2013年6月1日)の時点で、新作が「やっと」できそうだとMCしてたのに、そこからさらに1年半かかって。本当に難産でしたね(笑)
豪文 あの時点ではまだレコーディングには入ってなかったですけど、歌詞が入る前のデモは全部だいたいできてたんですよ。それを「すぐ出る」ふうに言わなきゃよかっただけの話なんですけど(笑)
──あの野音でもやっていた「覚めないの」や「今日のすべて」は3年くらい前からやっている曲だし、すでにあの時点でも定番としてファンの間でも定着もしてましたよね。でも、じつは「覚めないの」は最初にライヴでやりはじめた頃とはもうアレンジがぜんぜん違うんですよ。
豪文 「覚めないの」は、11年の6月に僕がソロでライヴに誘われたときに作った曲やから、もうずいぶん長いですね。
──オオルタイチ+ウタモと回った2011年9月の東北ツアーの頃の「覚めないの」は、アレンジも含めてメッセージ性が強い感じでした。
豪文 そうですね。もっとロックっぽかったです。
──「覚めないの」は3・11の東日本大震災からまだほどなくの時期に生まれた曲だし、もう少し後にできた「今日のすべて」にしても、その当時の心境が反映されていたと思うから。その2曲がキセルのレパートリーとして最初の思いも含めて変化したり、完成していいったことが、そのままこのアルバムのひとつの筋になっているとも思ってるんです。
豪文 「覚めないの」は、最初のアレンジでやりながらも「なんか違うな」とは思ってたんです。2013年の年明けくらいからアルバムの曲を作り出したときも、まず「覚めないの」から取り掛かったんです。なんか気になる部分があったんで、アルバムに入れるにあたってアレンジも含めて最初にしっくりさせようと思って。結局、アレンジだけじゃなく、歌詞も後半をちょっと変えました。でも、新しいアレンジにしたら、お客さんには「前のほうが好きでした」とか言われたりもしましたけど(笑)
友晴 僕も前のアレンジの強いメッセージ性みたいなのが、この曲のいいところなんやろと思ってたんです。兄さんから「こういうアレンジに変えたい」って提案があったときには、「ゆるい! いやだ!」ってケンカしました(笑)
豪文 アルバム作り出したときはケンカばっかりでしたね。「もう解散や!」とか言うて。
──でも、新しいアレンジに感じるちょっとふわふわしたムードって、じつは3・11から3年半以上が経って世の中の話題としては風化してしまったように扱われている部分と共通している感覚を指してると思うんですよ。現地に住んでいたり、行き来して現状を見ている人たちの実感とは別の流れが東京の街やメディアにはあって、被災地の実情や原発のことが否応なく忘れさせようとしている気配もある。じゃあ今の日常が落ち着いていて本当に平和なのか言われると、じつはそれもよくわからなくなっている。そういう日常の心理に沿っていった結果だと思ってるんです。
豪文 そこまで考えてなかったですけど、アレンジに誘われて出てきたところはあるかもしれないです。僕はもうそういう状況はどんどんひどくなると思っているんです。風化というより、歪みとか傷みたいなのがどんどん色濃くはっきりして来てる気がして。だから、そこから離れて音楽はやっぱり作れへんというか。身のまわりにも小さくても深い溝がたくさんある気がするし。
──だとしたら「もっと力説するぞ! 聴いてくれ!」という感じになったっておかしくなかったわけじゃないですか。でも、むしろキセルのアプローチは、この過ぎてゆく日々や、ふとしたきっかけで浮かび上がる喜怒哀楽にきちんと寄り添って、起きたことや伝えなくちゃいけないことを忘れないようにすることを選んだ。『明るい幻』は、そういう「寄り添う」アルバムだと思ったんです。そう考えると「覚めないの」と「今日のすべて」の存在はすごく大きいし、しかも「覚めないの」は、この3年半の日々のなかでこうして変化していったことに大きな意味がある。
豪文 そうですね。野音があったり、キセル15周年の渋谷AXでのライヴ(2014年5月18日)があったりしつつ、そういう機会があるなかで、大げさかもしれないですけど、自分らがやってる音楽とお客さんとの距離感みたいなものが自分の中で変わったような気がしてるんです。
──「距離感」?
豪文 「人に聴かせる」ということを今までよりもっと考えるようになったというか。
──確かに、震災があってそれ以降になにを歌うか、伝えるのかというテーマが出てきたときに、なにかが兄さんに立ちはだかったというのはあるのかも。
豪文 やっぱりそれは素直に一番大きかったですね。
──でも、震災の直後には「覚めないの」や「今日のすべて」みたいにダイレクトに反応したすごい曲が書けていたわけなんですよ。それが、時間が過ぎて、いろんなことがひどくなってるはずなのに忘れられてゆくという流れのなかでなにを書くべきかというテーマが、より切実なものとして浮かび上がってきたからこそ、今回の新作までじっくり時間がかかったんじゃないのかなと思うんです。あと思ったのは、『magic hour』にしても『凪』にしても、歌詞の主人公は兄さんですよね。でも、『明るい幻』では、歌詞で描かれる物語を聴き手の毎日にも渡そうとしているという気がするんです。
豪文 どうしたって自分からは離れられないんですけど、もう少し俯瞰したところから言いたい感じを出したいなって。友晴くんの曲では前からあったんですけど、もうちょっと先に進めてやってみたくて。そうしないと続けるのが大変そうやと思ったのもあったし。
友晴 例えばいつも失恋せなあかんとかな。
豪文 『凪』が終わったときに「歌との距離を取りたい」とすごく思って。でもそうやって歌詞を書くのはすごく難しくかったんです。今回は、そういうことと震災後の現時点での気持ちみたいなものを感じながら作ってたというか、それが時間がかかった理由なのかなとも思ってて。。
──とにかく、歌詞がすごく難産だったのが、完成まで時間がかかった理由でもあるんですよね。
豪文 今までも歌詞に苦労したことはあるんですよ。でも、これまでは発売までの切羽詰まった状況のなかで結局歌詞ができていったりしたんですけど、今回は「あれ? これ無理か?」となって。最終的に、ウッチーさん(内田直之)、角張さんと相談して「発売を一度延ばそう」と決めました。
──15周年記念の渋谷AXでは、何曲か新曲をやりましたよね。アンコールでやった「たまにはね」とか、すごくいい曲だと思いましたけど。
豪文 でも、あのライヴが終わってからが一番大変でした。「あと2ヶ月とかで残りの曲の歌詞が完成しなかったら、また大きく延期か?」みたいなムードも出てきて。でもアルバムの芯みたいな部分を占める曲が、まだできずに残ってたんです。
──それはどの曲ですか?
豪文 1曲目の「時をはなれて」、7曲目の「ミナスの夢」、最後の「声だけ聴こえる」の3曲です。この3曲を「頭、へそ、ケツ」みたいに考えていて、そこが決まればあとはうまくいくと思ってました。それで、夏の終わりにようやく「時をはなれて」の歌詞ができて、そこからは一週間くらいで5曲歌詞が書けてアルバムが完成した。そんな感じやったですね。
──やっぱり「時をはなれて」が書けたことがすごく大きかったんですね。
豪文 そうです。友晴さんと高尾山に行って、帰ってきたその晩にだいたいの雛形みたいなのを書いたら、他の曲の書きかけだった歌詞もばーっとできて、自分のなかの流れがよくなったんです。
友晴 高尾山に行ったんは、もう勢いでしたね(笑)
豪文 なんか急に「高尾山行こうや」って言ってきて。
友晴 兄さんが歌詞で悩んでたときには僕の家に泊まりに来たり、前に歌詞よく書いてた喫茶店行ったりもしてたんですけど、「ぜんぜんダメ」って言ってて。
豪文 僕が歌詞書いてるところに弟に来てもらったりとかもしたんですけど、来てくれたからといって状況が変わるわけでもない。だから、そういうときには思ってることとかをとにかく話して、話したらまた考えて書いてみるみたいなことをよくしてましたね。
友晴 それで「もうこれはあかん」と思って、ある日の夕方前に兄さんに「高尾山行こう」って言ったんです。
──え? 夕方前に?
友晴 そうです。着いたらわりと夜やった。真っ暗でしたね。でも頂上まで行ったんですよ。
豪文 行ったね。
─結果的に、それがよかったってことなんですね。
友晴 体が疲れたのがよかったんちゃうか。
豪文 でこぼこ道は心にいいらしいです(笑)。その前の3、4日、友晴さんの家に泊まらせてもらって、いろいろ話したり、興味ある本を読んだりしてたんです。そのときに読んだ本がすごくおもしろくて。
──なんて本だったんですか?
豪文 赤坂真理さんの『愛と暴力の戦後とその後』(講談社現代新書)って本です。それがめちゃくちゃおもしろいというか、読んでる自分の状態とかも影響したと思うんですけど、すごくアドレナリンが出たんです。赤坂さんは『東京プリズン』って小説を書かれた方なんですけど、もともと僕も育った環境もあって、戦争中のことや、戦後史とかに興味があって、ここ1年くらいそういう本をわりとたくさん読んではいたんですけど、赤坂さんのその本は本当にすごくおもしろかったんです。
──じゃあ、その本を読んで、夜の高尾山に登って、体が疲れたところで、言葉がやっと堰を切って、「時をはなれて」が生まれた。
豪文 いっぱい言葉は書いていたんですけど、メロディに言葉をはめるというパズル状態にしすぎていたんですよね。時間が経ちすぎてるあせりもあったし。
──考えすぎて正解がわからなくなっていたというか。
豪文 でも今はその状態も抜けたので、この流れを大切にしたいです(笑)
──じゃあ、アルバムの一曲ずつについて、聞かせてください。まず、アルバムの難産の理由でもあり、この曲の歌詞ができたことで完成に一気にたどりついたという「時をはなれて」。曲ができた時点で、歌詞はまだないけどアルバムの一曲目と決めていたということですか?
豪文 そうですね。「時をはなれて」という言葉自体もわりと最初からあって。そこからストレートに歌詞が書けるところまで、いろいろぐるぐるしました。
友晴 そこまでが大変やったな。
豪文 言葉自体を思いついたんは、農業してはる人とか、お寺を作る人とかが今のことだけ考えないでむしろ自分の次の世代のことを考えながら仕事をしてるみたいな話を読んだところから「時をはなれて」って言葉がでてきたんです。自分らがいなくなったあとの時間も、自分らが生まれる前の時間も同時にあるみたいな感じにしたくて。
友晴 引き継いでいるものとかね。兄さんが僕ん家来たときに、大林宣彦監督の『この空の花 −長岡花火物語』を借りて見たんですよ。その映画の感じとも、この曲がすごくリンクしてる気がして「いいな」と思ってました。
豪文 曲のモチーフ自体は、映画を見るずっと前の『凪』の頃からあったんですけどね。
──「夏の子供」。
豪文 これも曲自体は結構前からあったんです。アレンジをつけ始めたときに、車に乗って街を離れるシーンでちょっと前のSF映画みたいな感じで、目のアップになると海と山が映り込んでるみたいな、そういうのが浮かんできて。でも歌の主人公が大人やとしっくりこないというか、いろいろ説明がいるなと思って。書き直しするうちに、タイトルを「子供」にしたら、ちょうど落としどころが見えた感じでした。
友晴 曲調的には『凪』の「島」みたいな、なじみやすい感じですよね。すごく好きです。
──「君をみた」。
豪文 AXで新曲としてやりました。いろいろと煮詰まっていた時期に『夜と霧』(ヴィクトール・フランクル)っていう、すごい暗い本を読んでいて。
──ナチスの捕虜収容所の話ですよね。
豪文 内容がすごすぎるんですけど、めっちゃ感情移入してしまって。その感じと(種田)山頭火の句集を読んでたから、そのふたつを一緒にしたような感じの歌詞にならへんかなと思ってて。
──なるほど。だからなのかな、「夏の子供」と「君をみた」を続けて聞くと、前の曲に出てくる「子供」を見失ってしまったような、ちょっと不思議な感覚になるんです。
豪文 自分のなかではなんとなく同じ主人公のつもりやったんですけど、この2曲は、ちょっとだけつながる感じにしたかったというのはあります。
──「覚めないの」。友晴くんも、さすがにもう今のアレンジは肯定してますよね?
友晴 いやもう、今もひっかかってたらやばいです(笑)。たまたま家にある音源を整理してたときに前のアレンジのが出てきたんでちらっと聴いたんですけど、曲としての完成度は今のほうがぜんぜんいい。今のアレンジのほうが、曲として終われるんですよね。
──ああ、なるほど。
豪文 終わり方が難しかったからな。
友晴 それが一番でかいかも。
──さっきも言いましたけど、今のヴァージョンのほうが、感情が多様化してるというか、いろんな気持ちを受け止められてますよ。前のままでは「終われない」というのは、音楽的に曲として終われないという意味でもあるだろうし、強い感情の持っていきどころがなくなっていたという意味でもある気がします。
豪文 そうですね。
──「花に変わる」。
豪文 曲は友晴さんなんですけど、サビの後半は僕が付け足したり、アレンジも一緒にやったりしました。フォークっぽいけど、ちょっとソウルっぽい感じにもなったらなと。
──確かに「友晴くんの曲だよな」と思って聴いてるんだけど、そのうちに「あれ? もしかして兄さんの?」って感じになるところがあるんです。
友晴 曲のおいしい落としどころとか、コード進行とかは兄さんに作ってもらったんですよ。
豪文 この曲もわりと古くて、友晴さんが最初に作ったのが2011年くらいでしたね。2番のサビの終わりの歌詞は先にできてたんです。ゴールはできてたんですけど、そこまでの道のりがなかなかできなくて。
友晴 「なにが花に変わるねん?」と思ってました(笑)
──「死」のイメージもありますけど、去年植えた種が花に変わるみたいな希望や再生の側面もあって。
豪文 なんか、ポッと明るい、力の抜けた感じにできたらなとは思ったんですけど。
──「そこにいる」。
豪文 最初、サビの何行かだけできてました。なんかさり気なく、いませんよ~みたいな顔で、よく正体のわからへんものがそこにいる、というイメージだけでちょっとずつ言葉を埋めてたんです。これができたのは、近所のコンビニの前に椅子とか出して、角打ちみたいに、知らない人同士で飲みながら井戸端会議とかしてるのを最近よく見かけるようになって、僕もたまに行って話を聞いてたりしてたときで。ある日の、そこからの帰り道にこの曲の出だしの歌詞を思いついて、そこからはもう場面を繋いでく感じですーっと書けました。
──この曲だけじゃないですけど、答えだけ先に見えてるというパターンが多いですね。
豪文 そうです。ゴールだけ。
友晴 でも、その兄さんに見えてるゴールも、そもそもぼやっとしたものなんですよ。「そこにいる」みたいなぼやっとした感覚を書いていくというのはすごく大変やったと思います。掘り下げていかないと雰囲気ものになりますしね。
豪文 勉強になりました。
友晴 「そこにいる」は歌詞的にも、アルバムのA面部分の最後にすごく合ってると思います。
──ふと思ったんですけど、今回のアルバムのタイトルって、今までになく「動いてる」状態というか、述語を使ったのが多くないですか? 「時をはなれて」「君をみた」「覚めないの」「花に変わる」「そこにいる」「同じではない」「声だけ聴こえる」とか。
豪文 言われてみたらそうかもしれないです。
友晴 斉藤(和義)さんのツアーで兄さんがあちこち行ってたというのもあるんかね?(笑)
豪文 電車はめちゃめちゃ乗りました。ツアーでスケジュールが許せば、飛行機移動をなるべくやめて、ひとりで電車移動にさせてもらって。それは関係ある気がします、たぶん。
──単純に肉体が動いてる状態というか、そうやって流れてく景色とか人間を眺めてるなかでの心の動きが反映したというか。
友晴 まる一年とか家にこもって歌詞書いた、とかとは違うものになってると思いますね。兄さんが自分を追い込んでる時期もあったですけど。
──でも、追い込んでいた時期は逆にはかどらなかったわけでしょ?
豪文 焦るのを気にしないようにしつつ、出口のみえない長距離マラソンみたいな感じでした。
──そのツアー移動で見える景色とか、さっきのコンビニ前の飲み会の話だけじゃないと思いますけど、いろんな人や景色を見ることで、歌を聴き手に託すような気持ちができていったのかなと思ったりします。
豪文 そうかもしれないです。
──では、後半に移って、「ミナスの夢」。
豪文 「ミナスの夢」というタイトルだけ前からあって、それがこの曲ができたときにすごくはまる気がしたんです。
──去年の野音特典のブックレットでインタビューしたときは、2人はブラジル音楽か黒人音楽しか聴いてなくて。それもブラジルだとミナス派と呼ばれる人たちの音源をアナログ・レコードで聴いてるという話だったんですよね。
豪文 そうですね。CDではけっこう前から聴いてたんですけど、レコード屋でアナログを見つけて。レコードで聴くことで、ちょっとテンションがあがってたというのはありますね。
──ミナスっぽさという意味では、この曲もそうですけど、「そこにいる」もサウンド面での影響をかなり感じます。
豪文 あれはミナスの人じゃないんですけど、カエターノ(・ヴェローソ)のセー・バンドのギター(ペドロ・サー)の人がすごい好きで、そんな感じのリフで作れへんかなと思ってやってみたんです。ミナスの音楽って不思議というか、メロディとかコードとかすごく新鮮に聴こえるし、アレンジも高度なんですけど、なんかローカルな感じがあって安心するんです。不思議に懐かしい感じもするし。いわゆるミナス派のミュージシャンが子供だった頃は、すごく古いものを大事にする文化があって、曲を作るときに子供の頃の記憶とか感覚に対応して歌を作ってくみたいな、他のブラジルの地方と比べると、いくぶん内省的な土壌があるみたいなことを、何かの記事で読んで、すごく合点がいったんです。
──アルバム・タイトルにもなった「明るい幻」というフレーズは、この曲の歌詞に出てくるんですよね。
豪文 「明るい幻」というフレーズ自体は、お世話になっていた人がお店を閉めるみたいなメールをもらって、それに対してちょっと熱い文面みたいなのを考えたときにその言葉が出てきたんです。そのあとで歌詞を考えたときに、「明るい幻」という言葉がこの曲のサビの終わりにちょうどはまったんで。それで、全曲が揃ったところで「アルバム・タイトルをどうしようか」と友晴くんと話してたときに、タイトルを『明るい幻』にしてみたら、自分の記憶とか、昔の人が見てた今とか、今の人らがこれから描くビジョンとか、そんなことを頭のどこか片隅に置きながらの作業やったので、全体がなんとなくしっくりくるなと思えて。
──「たまにはね」。この曲がアルバムに入ってぼくはうれしいです(笑)。
豪文 お客さんはどうなんだろう?
友晴 どうなんやろね?
──言葉がはっきり伝わるという意味での曲の強さがあります。
友晴 「君の犬」とかみたいな伝わり方ですかね?
豪文 そうかもしれないです。あと、京都の磔磔でキセルがやったときに、うちの父ちゃんが見に来てくれてて、あとで母ちゃんに聞いたら「父ちゃん、泣いてたで(笑)」とか言ってて。うちの父ちゃんは二人組枠でいうとコブクロ派で、キセルはたぶんそんなにピンとは来てないと思ってたので、それを聞いて意外やったんですけど、これは入れとかな(笑)って思ったんです。
──押し付けのない感じというか、僕にとっては「寄り添う」感覚を象徴してる一曲でもあります。
豪文 これからいろいろ世の中も大変そうやなと思うのもあって。でもこの曲ができた背景に、松永さんがDJのミックスCD(松永注:ハイファイ・レコード・ストア2014年お年玉プレゼント用ミックスCDで、選曲だけでなく子供のころや若いころの話をしゃべりました)を聴いてた時の体験があって。地方からの帰りの道中で聴いてたんですけど、松永さん個人の思い出話やのに、ルー・リードの曲がかかった瞬間に、目の前にニューヨークの風景がバーッて我がごとみたいに拡がった感じがして。すごいトリップ感やったんです。静岡辺りでしたけど(笑)
──「音楽があれば大丈夫です。絶対になんとかなります!」って言われても信じられないけど、「たまにはね」のちょっと頼りないような、でも音楽がそばにいてくれる感覚は信じられる気がするんです。そして「今日のすべて」。「たまにはね」がイントロみたいな役目を果たして「今日のすべて」に入っていくからグッとくるんですよ。
豪文 「今日のすべて」は今までのキセルの曲より言葉数も少ないし、符割りとかもちょっとなかった感じで、そういう曲が作れたとことが自分のなかでも大きかったですね。
──歌詞の面でもこの曲は大きくないですか? さっきの「自分から離して歌詞を書く」という意味では、「わたしのすべて」と同時に「あなたのすべて」という言葉もあって。
友晴 兄さんに子供ができて、外から人を見るという場面が増えたというのもある気がします。
豪文 それはきっとあります。
友晴 そういう存在が身近にいると、自分以外の人というものをいろいろ考えられるようになったりするのかなあと。
──「同じではない」。
豪文 わりと「今日のすべて」の延長みたいにとらえてました。
友晴 言葉数も少ないしな。
豪文 この曲もゴールだけ先に作ってました。最初はサビのところが「楽しい」じゃなくて「まぶしい」だったんです。でもうまくいかなくて。それが「淋しい」「楽しい」になりました。「同じではない」というテーマで歌詞を書くことで、その2つの気持ちにつながるなと思って。
──友晴くんのもう一曲で「絵の中で」。
豪文 構成が不思議な曲なんですけど、大サビまでの前半の歌詞は書けたんです。「なんの歌かな?」と思いながら歌詞を見返してた時に、歳を取って現実の世界と自分のなかの記憶の世界の境界が曖昧になってって、いつかの幸せな場面とか感覚がずっとループしてる人の頭のなかみたいな感じがしたので、そんな感じで後半まで作りました。
友晴 作ってるときに、ゴッホの「ひまわり」の絵がイメージで出てきて、それは伝えましたけどね。「花に変わる」とも結構対になってるなと、あとで思いましたね。
──アルバムのなかでは、わりとシリアスな情景が歌われているなかでほわっと浮かんで出てくる友晴くんの曲が、じつは”明るい幻”的な役目を果たしている気がします。でも、もしかしたらここで歌われてる景色はもう現実ではないというか、夢のなかにしかない世界かもしれないという儚さもあるんですが。
豪文 たぶんそういうのが好きなんです。
──「空の上」。
豪文 これもライヴでは早い段階からやってる曲です。サビの「微笑んだあなたの心は空の上」みたいな言葉だけ最初からあって。歌詞もわりとすんなりできたし、曲を作ってから歌詞が乗るのも早かったですね。ウッチーさんのミックスもすごいし、なんか風景を変える音やなぁと思ってます。
──直接的な表現ではないけど、「なにか大きなことが起きた後」という感じがある重厚な曲ですよね。でも、そこでズーンとなって終わらずに、最後に「声だけ聴こえる」が流れてきて、ふっと救われる。
豪文 そうですね。そのままでは終われへんなと思って、曲順を決めてるときに「もう一曲作らな」と思ったんです。この曲はすごく不思議な感じですよね。
友晴 野音でもやったんですけど、そのときとは歌詞がもう全然違うんですよ。ちょっと重いような曲でもありながら、さらっとしてますよね。
──アルバムの流れで聴くと、「空の上」で、もう届かない場所から聞こえてた声が、気が付いたら近くの人がかけてくれていた声だった、って気がつくような感じがあって、それがいいなと思ったんです。それこそ兄さんがコンビニの前でお酒を飲んだような人たちであり、知り合いであり、家族であり。今、この日々のなかにいる自分に気がつく、みたいな感覚ですよね。そういう意味でも「時をはなれて」と、どこかでつながっていく感じがあるかもしれません。
友晴 めぐって戻って来た感というか。
豪文 それはあるかも。最後の曲は自分でもよくわからないところが多くて、でも一番好きかもです。
──印象的なアートワークについて、聞いてもいいですか?
豪文 最初はイラストレーターのnakabanさんには原野を描いてもらおうと思ってたんです。ジャケ案を考えたときに、このタマムシというのも最初にあったんですけど、通らへんやろうと思っていて。でも、タマムシを描いてもらったら、自分たちとしてはしっくりきたんです。あと、裏ジャケのビル街の灯りは僕らはなにも言ってへんのにnakabanさんが描いてくれたんです。たぶん、音を聴いて、想像してやってくれはったんです。
──この裏ジャケとの対比はいいですよね。「人がいる」みたいなテーマにも合う。
豪文 今回は池袋のスタジオでレコーディングしたんですけど、ウッチーさんが偶然にも「池袋(街)の感じも合うよ」ってアルバムの完成後に言ってて。
友晴 ウッチーさんは、その時点ではこのジャケになったことはぜんぜん知らずにそう言ってたんです。
──それって、人のいる場所で聴こえてくる音楽を作ったっていうことじゃないですか? 僕が今回の新作で強く思った「寄り添う」という感覚って、そういうことだと思うんです。お客さんやキセルの曲を聴く人たち、普通に街で暮らしている人たちのいろんな気持ちにも寄り添ってあげられる音楽になっているというか。
豪文 寄り添えてるかどうかはわからないんですけど、そういう思いはあります。
──もちろん、「きみの気持ちわかってるよ」みたいな気持ち悪い感じじゃなくて(笑)。気がついたらいる、みたいな、そういう音楽のありかたみたいなものかなと思ったんです。シリアスなテーマの曲があるからといって「不安ですよね?」って耳打ちしてまわるような作品でもない。むしろ、その不安をほどく手伝いをしてあげるというか、ほどけるかはわからなくても話し相手にはなれるというか。
豪文 そこまでできたらもう十分やと思います。
──それは、「たまにはね」をAXで初めて聴いたときも思ったことですけど。
友晴 あの曲は、AXの前日くらいまでは「これは、ないな」とか言ってた曲でしたけど(笑)
豪文 「恥ずかしい」とか言ってたな(笑)
──でも、「キセルがこんな率直なことを歌うんだ」って新鮮さがありました。
豪文 そうなんですよ。「わざわざ言わんでも」みたいなところもあるから。
友晴 でも「言わんでも」って思ってる人が言ってるのがいい、ってところまで来てるんかなとは思ったけどね。10年前だったらまだそうならんかったやろうけど、今まで言ってこうへんかったことを言えたというか。
豪文 それは今まではそんなに思ってなかっただけです。「たまにはね」は、ほんまに15周年ライヴ用の記念で、結婚式とかの手紙じゃないですけど、その日だけやるような曲を作ったらどうかなと思って作ったんですよ。
友晴 角張さんも「すげえいい曲」って言ってくれるし。
豪文 結局アルバムにも入りました。
──キセルの音楽って、いってしまえばフォークとサイケデリックの隙間にあると思うんですけど、『明るい幻』は、単にそういう音楽性で語るべきじゃなく、震災以降にみんなが抱えている揺れみたいなものがぜんぜん解決されてないという日々に見え隠れする雑感や実感を、フィクションとノンフィクションの隙間で表現できた作品だと思います。
豪文 そうですね。自分がそうなんだと思うんです。ぐらぐらしてる分ちゃんと足元みないととは思ってるんですけど。
──そういう意味でも、このアルバムは「大丈夫だよ」というのとはまったく別の言葉と表現で、今の人の心に寄り添えるアルバムだと思うんです。
豪文 おこがましいかもしれないですけど、音楽を生業としてるなかで、「役に立とう」とかそういうわけではなくて、自分らの曲がいろんな人たちのいろんな日常に何かのきっかけで、たまに「寄り添う」みたいなことができたらと思っていたので、そう言ってもらえるのはすごくうれしいです、でも、アルバムが全部できたときは「真面目すぎへんかな?」とか、ちょっと不安にもなりましたけど。でもこういうのもあっていいんちゃうかなって、思えるところまで作れたと思っていて、今回はほんまにいろんなことがありがたかったです。
友晴 真面目でいいんじゃないかなと僕は思いました。
──次はもう何年も待たなくてよさそうですね。
豪文 なるべく早くと思ってます(笑)
友晴 それ毎回言ってるやろ(笑)
(interview by 松永良平)
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TICKET 前売 3,500円(ドリンク代別)
下記プレイガイドにてチケット販売中!
・ぴあ(P: 245-693)
・ローソン(L: 42807)
・e+
INFO ジェイルハウス: 052-936-6041, SMASH: 03-3444-6751
OPEN / START 17:00 / 18:00
TICKET 前売1F スタンディング: 3,500円(ドリンク代別)
2F指定: 4,000円 (ドリンク代別)THANK YOU SOLD OUT!
下記プレイガイドにてチケット販売中!
・ぴあ(P: 245-760)
・ローソン(L: 77632)
・e+
・岩盤
INFO SMASH: 03-3444-6751
日時:2014年12月06日(日)17:00スタート
場所:タワーレコード梅田NU茶屋町店イベントスペース
START 17:00
TICKET FREE
ご予約者優先でタワーレコード梅田NU茶屋町店、梅田大阪マルビル店、難波店、神戸店、京都店にて、
12月03日(水)発売(12月02日(火)入荷商品)の「明るい幻」(DDCK-1040)を
お買い上げの方に先着で「イベント参加券」を配布いたします。
イベントの観覧はフリーとなっておりますが、「イベント参加券」をお持ちの方は
優先で会場にご入場いただけす。イベント参加券をお持ちのお客様のみサイン会へ
ご参加いただけます。
(当日はイベント参加券と「明るい幻」のCDジャケットを必ずお持ちください)
INFO タワーレコード梅田NU茶屋町店: 06-6373-2951
開催日時 2014年12月20日 (土) 17:00~
場所 タワーレコード新宿店 7Fイベントスペース
集合場所:7Fエレベーター横階段(イベント開始30分前にご集合ください。)
START 17:00
TICKET FREE
※集合場所:7Fエレベーター横階段(イベント開始30分前にご集合ください。)
タワーレコード新宿店・渋谷店にて12/03発売(12/02入荷)キセル 「明るい幻」を
お買い上げいただいた方に(予約者優先)、先着順で整理番号付サイン会参加券を
差し上げます。整理番号はランダムでの配布とさせていただきます。
(当日はイベント参加券と「明るい幻」のCDジャケットを必ずお持ちください)
INFO タワーレコード新宿店: 03-5360-7811