VIDEOTAPEMUSICとクレイジーケンバンド、そして、長谷川陽平がDJで出演するスペシャルなイベントが8月27日(土)、よみうりランド遊園地内 らんらんホールで行われる。VIDEOTAPEMUSICが所属するKAKUBARHYTHMの20周年を記念する催し物で、イベントの名前は「棕櫚(しゅろ)」と名づけられている。VIDEOTAPEMUSIC、クレイジーケンバンド、長谷川陽平、さらに棕櫚というキーワードが、東京都と神奈川県との県境で交差する魅惑のティキ空間。この夏いちばんビザールな白昼夢を前に、クレイジーケンバンドのクレイジーケンこと横山剣とVIDEOTAPEMUSICが対談を行った。以後、ビデオくん、剣さんの略称でよろしくおつきあいください。
(インタビュアー:安田謙一 写真:寺沢美遊)
――お二人の会話ということでは、一度、ビデオくんのアルバム『ON THE AIR』(2017年)が発売されたタイミングで、ウェブ対談(https://www.houyhnhnm.jp/feature/121054/)をされています。
おふたり、それぞれに対するインプレッションや、共通するエキゾティック観など、興味深い話がいっぱいなんですが、この後、実際にお互いの作品に参加するという形で、共演の機会が増えてきます。時系列的にその流れを振りかえってみたいな、と思います。
まずは2017年に、クレイジーケンバンドの結成20周年を記念して、「スージー・ウォンの世界」と「発光!深夜族」のミュージック・ビデオをビデオくんが監督することになりました(DVD『20/20 Video Attack Live at 神戸 CRAZY KEN BAND 香港的士2016』に収録)CKBが所属するダブルジョイ・レコーズから膨大な映像素材を預かっての作業でしたね。
VTM 膨大な映像素材の中に2002年の韓国公演の映像も入ってたのですが、「棕櫚」への出演を長谷川陽平さんにお誘いしたときに、その時の韓国公演を観ていたと言ってました。
映像素材は演奏シーンだけではなくて、CKBが廻ったいろんな街をメンバーが歩いてる姿だったり、それこそ当時のソウルの風景やいろいろな街の映像があって、そこにも20年の歴史を感じました。
CK (完成されたPV観て)一緒に行ったわけではないのに、グッとくるところをちゃんと使われてて、びっくりしました。
VTM 香港でも剣さんが撮った街の風景とか、なんでこれ撮ってるんだろう、と思いつつ、同時に、わかるなあ、というところもあって。看板の文字とか、犬とか。
――続いて、ビデオくんは2018年9月24日には横浜アリーナで行われた「クレイジーケンバンドのデビュー20周年記念スペシャル・ライブ」でVJを担当します。
VTM CKBの現場でがっつりとVJをやるのは、これがはじめてでした。思い出野郎Aチームの増田(薫)くんに頼んで、アニメーションも作ったりしました。自分のライブでやるような既存の映像を使っていくようなのではないけど、増田くんのアニメーションやイラストや撮り下ろしの映像を駆使して、それに近い質感のものを作ったり。楽しかったです。
CK あの映像のおかげで、視覚からもグルーヴが感じられるようになりました。
VTM 全体的なVJの内容には細かい注文はなかったけど、ボリウッドっぽい曲、「中古車」のVJに出てくる車種は全部、剣さんから指定がありました(笑)
CK ダメ車ばかり(笑)
VTM 日本から輸出されてったダメ車たちですよね。
――2019年、今度はビデオくんのアルバム『The Secret Life OF VIDEOTAPEMUSIC』に収録されている「南国電影」で剣さんがヴォーカリストとして起用されます。
CK デモ音源に「南国電影」ってタイトルがついてて、それ見てびっくりしました。なんだこれは、ビリビリビリビリ……(笑)
VTM ちょうどCKBも「南国列車」という曲を作られてたんですね。
CK そう。しかも、南国つったってハワイとかじゃなくてオリエンタルで。
VTM 「南国電影」というのは香港で60年代から70年代ごろに出てた映画雑誌のタイトルで、それをたまたま国立のリサイクル・ショップで買って。そのタイトルからインスパイアされて、剣さんに歌ってもらおうと、現代じゃない、もうちょっと昔のアジアっぽい、香港映画ぽい世界観で作りました。もともとライブではインストで演ってた曲だけど、そのときからすでに、メロディとか節回しに関しては自分の中に剣さんを「降ろして」きて、脳内剣さんが歌っているイメージで演奏していました(笑) ほかにも何曲かそういう曲はあるんですけど、歌モノのアルバムを作ろうってときに、じゃあもう、これはそのまま剣さんにお願いして歌ってもらおうと。
CK 「タイガー&ドラゴン」作るときに、アッコさんでやってるのと同じですね。脳内で歌ってるのは和田アキ子さんみたいな。
――ちょうど話に出た「南国列車」(クレイジーケンバンドのアルバム『PACIFIC』 収録)
を今度はビデオくんがリミックスしてます。レゲエのアルバムでたまにある、本歌からヴァージョンへと2曲続けて再生される仕様です。
CK 本編のあとに「二両編成」になっていて(笑) 列車に乗って微睡んできて眠って、気がついたら、どっか知らないところに来ていて、そこで車内放送が日本語じゃない、わかんない言葉で……リミックスはそういう雰囲気が凄くよかったです。
――ビデオくんのダブって、「トビ」の感覚というより、微睡みとか滲みという言葉が似合いますね。
CK 異次元に連れていかれるような。あとデジャヴ感。
VTM リミックスでも多用しましたがテープエコーの滲んだ質感にはやっぱりデジャヴ感がありますよね。自分にとってダブの好きな部分ってたくさんあるのですが、ヘヴィーさよりもクラフト感というか、手元にあるもので勝手に違法改造していくみたいな感覚も好きなんです。「南国列車」のリミックスをやる直前にタイに行ってて、バンコクで、エレクトーンとリズムボックスだけで軽音楽やってるレコードを買ったんです。そのエレクトーンの音をソフトウェアのサンプラーでサンプリングして、一音一音、音階つけて、それを弾いた音も使っていて、その音色の響き一発で東南アジアっぽい湿気がムワッと溢れてきて、さらにそれをテープエコーで滲ませて、みたいな。その音色で時空が歪んで、完全にウォン・カーウァイ「欲望の翼」の冒頭に出てくる亜熱帯の森を進む電車の車窓が見えました。
――そういえば、ビデオくんは、スポティファイに「The ExioticSounds of CKB」というプレイリストをアップされてますね。
VTM 完全に自分で聴くための趣味的なものですけど、あれも「金魚鉢」から「南国列車」のリミックスにどう繋いでいくか、という感じです。その間に合う曲を各駅停車感覚で繋いでいくイメージで。
――「南国列車」が入ってるアルバム『PACIFIC』の一曲目「Night Ta-ble」の歌詞にもvideotapemusicが登場します。
CK ♪滲みを呼び込むvideotapemusic(笑) 廃墟になったバンドホテルをイメージしてると、勝手にラジオが点いて、音楽が鳴り出す感じがVTMの世界の音像と一致したんです。
――それ、わかります。『ON THE AIR』のライナーにも「エアコンの室外機から音楽が流れたとしたら、きっとこんな感じだろう」という妄想を書きました。ビデオくんの音楽って、人がいない場所で鳴ってる音楽ってイメージがするんですよね。
VTM 室外機もそうですけど、生活してる人の家の裏側に吹いてる風とか、あの状態が(笑)
CK なんでわかるの、って感じですよね。こういう感覚について、まだビデオさんとお逢いする前に、ceroの高城さんと話してたとき、絶対に剣さんと話が合いますよって言われて(笑) 横浜とか本牧とか、やけのはらさんと一緒にフィールドワークしてたんですよね。
VTM 剣さんの本に出てくる場所を巡ったりしてました。あと鶴岡龍さんとも横浜の歴史とかフィールドワーク的な話をよくします。
CK 鶴岡龍さん! あの人の言ってることも、なんでこの感覚がわかるんだ、って。タマゴ色のシャツ着てるとこもツボですね(笑) カスタード色の。
――そんな19年の8月31日には、キネマ倶楽部のvideotapemusicのライヴに剣さんが出演、「南国電影」を歌います。
VTM キネマ倶楽部の上の階段から出てきてほしいってお願いして。その時の盛り上がりは凄まじかったです。
CK 夢の中で歌ってるみたいでした。子供のときに観た映画の場面みたいな状況になってて。
――続けて、ビデオくんは『PACIFIC』収録の「カラオケ・インターナショナル」のPVを監督。これはJOYSOUNDでの限定映像ですね。
CK これがまた凄い世界。ちょっとポンチャックぽいニュアンスもありつつ、しっかりポップで。男と女が踊ってる画も、どうやって作ってんだろうって。
VTM あれも増田(思い出野郎Aチーム)くんに作ってもらって。中国のカラオケのネオンとか、いろいろ参考資料を見てもらって。カラオケっていえば、台北に行った時に公園で野外カラオケにあわせて社交ダンスしているご年配の方々の集団になぜか混ぜてもらって「上を向いて歩こう」を歌ったことがって、その記憶も思い出しながら作りましたね。
――2020年の4月には、先の「南国電影」と「南国列車(videotapemusicリミックス)がカップリングされた7インチ盤がリリースされました。さらに、6月のCKBの配信ライブと、10月に武道館でビデオくんはVJを担当します。
VTM まさか武道館の現場を体験できるとか思ってなかったです(笑)ありがとうございます。
――2021年、CKBは歌謡曲や日本のポップスをカヴァーしたアルバム『好きなんだよ』を発売します。その中の山口百恵のカヴァー「横須賀ストーリー」のPVをビデオくんが監督しました。ロケーションが最高です。
VTM ロケ地は青梅の「スナック夢」ですね。もともと僕の「Funny Meal」(21年)という曲のPVを撮影した場所で、そのときに青梅あたりでキャバレーの廃墟やスナックなどをいくつかロケハンする中で出会いましたね。
電車の駅からも遠くて、本当に国道沿いにぽつんと、いきなりあって、送迎バスで駅からお客さん連れてきてカラオケする、みたいな店で。しかも現役で営業されていて。過去にはコロッケさんとかも出演されていました(笑) それこそ、柳町光男さんが監督した「さらば愛しき大地」(82年)って映画が、鹿島が舞台で、工場と畑しかない鹿島の風景の中にぽつんと「銀座の雀」ってスナックが出てくるんです。その中で女優の方(岡本麗)が「夜来香」を歌うシーンが好きすぎて。そのイメージでロケ地を探したところ、鹿島じゃなくて青梅にいい場所を見つけました。
「スナック夢」が良すぎたんで、そこに剣さんからPVの依頼があったんで、迷うことなく、またここで撮ろうと。
CK 青梅なんだけど、やってるうちに横須賀感が出てきて(笑)
VTM 「スナック夢」のあたりは福生も近いので、横須賀とは国道16号で繋がっているって感じで。あのあたりは岩蔵温泉があって、古い温泉地でもあるので、かつてはスナックやキャバレーもたくさんあったみたいですね。「スナック夢」だけが国道沿いに生き残っていて。
――ここで、いよいよ、2022年8月27日のよみうりランドでのVIDEOTAPEMUSIC presents “棕櫚”」の話に辿り着きました。
CK お誘いいただき、光栄です。稲城市(いなぎし)だけど、川崎市(かわさき)と言えば、かわさき(笑) よみうりランドといえば、昔、水中バレエっていうのがあって。水の中で劇をやるんですけど、ホースで空気を吸ったりしながら(笑) よく苦しくないなあとか思いながら見てました。
――「水中バレエ」の映像は、中森明菜のライブ映像でも使われてました。
VTM 水中バレエ!すごいですね(笑)
そういえばバンコクでもそういう水中ショウみたいなのを観ました。
CK オン・アイスとかも、わざわざ、氷の上で、ってところが面白いですよね。
VTM 今回、ライブやるところも普段、「アシカショー」やってるところなんですよね(笑)
そこのプールに蓋をして、そこがステージになるみたいな(笑)
CK マイナスイオン!(笑) のっさん(CKB、ハマのギター大魔人こと、小野瀬雅生)、海洋系が好きなんで、興奮しそう(笑)
――もともと、「ライブ・アンダー・ザ・スカイ」とか、先の中森明菜とか、ライブやってた場所に建ったそうです。
CK EASTですね。クールスも出てました。
VTM そう思うと歴史あるステージですね。僕は祖父母が府中に住んでいて、京王線で一本なんで、子供のころは夏休みといえば、よみうりランドか、実家の近くの西武遊園地とか。なのでだいぶ馴染みはあります。京王線の駅から遊園地まで登っていく時の高揚感が印象に残ってます。当時は動く歩道(スカイロード)で、今はゴンドラになっていますね。
CK 「ゲバゲバ90分」のオープンニング、あれも、よみうりランドですね。
VTM 仮面ライダーとかもよみうりランドや生田周辺がロケ地になっているものもありますね。あとは子供の頃は特撮ヒーローのショーを見るのも大好きでした。
――ちょうど、「よみうりランド」と「棕櫚」ってワードで検索したら、よみうりランド前にあった「棕櫚」ってレストランがヒットして(笑) もう潰れたみたいですけど、びっくりしました。
VTM 僕も「棕櫚」って店が存在しているのはだいぶ前に気になってましたが、たしかに小田急の「よみうりランド前」駅のお店なんですね! そこはまったく意識していなかった(笑)偶然です!
――たしかに「棕櫚」って言うのは、昭和の40年代、50年代にはありがちな屋号ではありますね。
CK 珊瑚とか。珊瑚礁とか。
VTM マッチがあったら欲しいですね。
CK スパゲティとか、やるせない味がしそうな(笑)
VTM (持参した、若き父上が映っている祖父が撮った写真を見せながら)この写真みたいに棕櫚には昔のプールとか遊園地に植わっているイメージもあるんですよね。椰子とは違うどこか懐かしいリゾート感が漂っていて。CKBの曲に「棕櫚」があって、僕の曲にも「棕櫚の庭」があって。で、よみうりランドということで、この写真の雰囲気も思い出して、イベントのタイトルを「棕櫚」にしました。剣さんくらいです、棕櫚の話でこんな風に盛り上がれるのは(笑) あと、鶴岡龍さんとか(笑) 棕櫚ってもともと日本に生えていたものだけど、椰子の木に似てるから、逆輸入的に南国っぽいイメージがつけられたんじゃないかと思って、その倒錯した感じに惹かれるんですよね。高度経済成長期とかに、リゾート感を求められたところに植えられてきたんじゃないかと。
このZINE(持参した「シュロ」)にもそういった話が書かれていて面白かったです。
――歯医者とか、産婦人科とか、昭和の町医者の店の前に映えてるイメージもありますね。
CK そうそう。薄暗いところに。昼なのに(笑)
VTM 直射日光が当たらないところでも育つんですよね。生命力がめちゃくちゃ強くて。一時期、鉢植えサイズの棕櫚とか買いたいなと思って、ネットで検索すると、どっちかと言うと、棕櫚を「買う」より「どうやって処分するか」みたいな情報しか出てこなくて(笑) 庭で育ち過ぎて困っています、みたいなのばっかり出てきて。伐採のビジネスとか。そういうのが多くて。
CK 切ない(笑)
VTM どっちかというと必要としてない人が多いってことに、逆に惹かれちゃって。
――捨てるのもなんか怖いですよね。「墓終い」みたいな。
CK 異常に背の高いのが本牧に一本あって。
VTM やたら背の高い棕櫚とかも、たぶん強いから伸びすぎちゃうんですよね。
当時の植えた人の想定というか、建築設計みたいなものを越えて伸びすぎちゃってるような、そんな棕櫚の姿を見ると、今の2020年代って植えた当時に思い描いた未来を完全に通り越しちゃったんだなって思います。「バック・トゥ・ザ・フューチャー2」で描かれた未来(2015年)を今がとっくに通り越してる感覚にも近い。
1本の棕櫚に蓄積された歴史も、ヴィジュアルも、あんまり必要とされていない感じも、全方位に僕の心を打つものがあります。
一同 いい話だ―。
――先ほどの「棕櫚」が店の名前だったという話があったんですが、そういえば、クレイジーケンバンドの新しいアルバム『樹影』ってタイトルも……。
CK 喫茶店の名前ですね。ボタニカルな店内にでっかいダイキンと思しきクーラーがあって。やっぱり棕櫚もあって、そこからやるせない香りがして(笑) 本牧2丁目で、もう無くなったんですけど、昔、ガソリンスタンドで働いてたとき、昼休みによく行ってました、隣に太陽堂って本屋があって、その隣がコインランドリーで、そのとなりに「ハイツ・メリー」っていうのがあって、そこにチャーリー宮毛が住んでいて(笑)松岡直也さんもその近くで。元はチャブ屋だったホテルの息子さんですね。
VTM 映画の世界ですね。
CK 昼でも薄暗い、そういう空気感が残ってたんですよね。
――樹影にしても、棕櫚にしても、読みとは別に漢字がいかついですね。
CK 禍々しいですね。言霊じゃなくて、文字魂(もじだま)(笑)
VTM 樹影と棕櫚が並ぶと、湿度があがりますよね(笑)
CK 子供目線で見る大人の世界。
VTM 漢字の画数も多くて子供には難しいですからね(笑)
――ビデオくんにも屋号を曲目にしてますね。
VTM 「ポンティアナ」(『ON THE AIR』収録)。草加の団地の並びにいきなり聞いたことがない言葉が出てきて。(熱帯魚の)アロワナ屋だったという。世には出てないんですけど、若い子がやってるZINEの企画でインタビューしにいったことがあって、一回だけ店の中に入ったことがあります。なんでこんなお店が埼玉の郊外にって思いましたが、アロワナってニッチな世界で、本当に好きな人しか買わないから、どんな場所でやっても関係ないよ、って自信を持たれてました。ポンティアナックっていうのがインドネシアの地名で、そこに買い付けにいかれてるのが店名の由来みたいです。今はコロナで買い付けとか、どうなってるのかな、って心配はあります。
CK 横浜山手駅の線路沿いにアマゾンクラブって店があって、昔は山手にあって、そこは火事になっちゃったんですけど、「ポンティアナ」的な強烈な電波が出てました。なのに出てくるのはビビンパとかチャプチェとかの韓国料理だったり(笑) あと、店の名前じゃなくて地名ですけど、「ushihama」(『ON THE AIR』収録)って曲、あれも凄いですね。
VTM 牛浜って名前が凄いですよね、横田基地のある福生のあたりの地名なのですが、浜もない内陸なのに(笑)
CK 十代のときにはじめて福生に来て、「牛浜モータース」って見たときに、なんだこれは!って(笑) そういえば「モータープール」って曲もいいですね。そのイメージもなんか繋がりますね。
VTM CKBの初ライヴはたしか福生ですよね。
CK 福生のレッドバードという店です。有名なチキンシャックの近く。あと、昔、ダックテールズでやった渦って米軍ハウスを改造したライヴハウスも好きでした。渦って名前が強いですね(笑) ストリート・スライダースがアマチュアの頃出てたとこです。あと、ジェームス藤木さんも。今年のツアーも福生からスタートします。
VTM 福生といえば、16号沿いの「神戸ステーキハウス」。あの建物も最高ですね。
CK 煉瓦造りの。
VTM デヴィッド・リンチの世界ですよね。赤いテーブルクロスで。
CK 「マルホランド・ドライブ」。あと、この近くに昔のアメリカのルート66沿いにありそうなモーテルがあって、そこも絶対、ポルターガイストが起きてるんじゃないかって感じの。昼なのに夜みたいな。
――地名の曲でいえばアルバム『樹影』には「強羅」という曲もあります。
CK 「強羅」(ごうら)。これも文字霊(もじだま)ですね(笑) 熱海もそうですよね。ねっかい、って字に何かを感じます。強羅は子供から見た大人のお忍びっぽい感じの歌です。高級旅館の。
――『樹影』でいえば、あと、なんといっても「The Roots」。凄い曲ですね。
VTM メロウなイントロから「お父さんのお父さんのそのまたお父さんの…」って歌い出す流れに、びっくりしました。最高です。
CK 当日はアルバムの曲を何曲やるかはわからないんですけど、棕櫚感を意識した選曲になると思います。
――『樹影』は前回の『好きなんだよ』に続いて、音のヌケがいいというか、気持ちがいいですね。
VTM 今度もプリプロ段階でパークさん(gurasanpark)がお手伝いされてて、ドラムスも打ち込みの曲もありますよね。
CK もともと(CKBのドラマーでバンマスの)廣石惠一さんは自分で叩くだけじゃなく、自分でマシンに打ち込んで来たり、「Sexy Mama」のドラムデータをまんま「昼下がり」に流用したりとか、CKBは勿論、その前のZAZOUからずっとやってるんですよね。
VTM セルフ・サンプリング。僕もよくやってます。
――コロナ禍で、ビデオくんも音楽の創作に新しい手段を用いるようになりました。
VTM いろんな場所に行って、滞在制作というのをやってまして。今年は沖縄に何度か通って作品を作ります。前は嬉野から依頼があって、1週間ほど温泉旅館に泊まって、風呂場のエコーを使って風呂オケの音を録ったり、祭りに使う太鼓とか鐘の音とか、旅館の番頭さんにカスタネット叩いてもらったり、旅館の社長さんにギター弾いてもらったりして、音楽を作りました。2曲作って、1曲は「嬉野チャチャチャ」って曲で、振付けもつけて、夏まつりに子供達が踊っていたり。幼稚園の卒園式で踊ったりして。もう一曲の「ロマンス温泉」はアンビエント的なサウンドで、温泉の脱衣所でずっと流してもらっています。
CK その話を細野晴臣さんとラジオでしてるのを聴きました。
――僕も聴いてました。あそこで細野さんが言ってた「楽しそうな仕事してるね」っていう言葉、最高の誉め言葉だと思います。
CK 細野さんもビリビリ来てたみたいですね。そうでしょう、って聞いてて興奮しましたね。
VTM 光栄です。ちなみに初めてライブで嬉野温泉に訪れたときは、コモエスタ八重樫さんもDJで出演されていて、マンボとかチャチャチャの音で温泉の芸妓さんとかが踊りまくっている現場を見て、それで嬉野温泉とラテンが結びついたんです。「嬉野チャチャチャ」のラテンテイストはある意味コモエスタさんからのインスパイアです。
――嬉野でも、今回の「棕櫚」のよみうりランドでも実際の土地をからめることで、人それぞれの記憶のレイヤーと重なり合って面白いですね。剣さんも旅からのインスパイアは少なくないですよね。
CK タイとか、インドネシアとか、たまたまタクシーでかかってた音楽とか。運ちゃんに「これ、何?」って(笑)
VTM 僕も台北で乗ったタクシーがやたらスピードを出すタクシーで(笑) カーステレオからは現地のトラップがずっとラジオでかかってて。台湾の夜景と猛スピードのタクシーとトラップの融合した記憶が、「You Drive Me Crazy」って曲になりました。
――あれ、すごくよく聴こえるんですよね。
VTM バンコクに行った時はタクシーでもスーパーでも、ずっとShazamしてました。旅先の街の中で出会う音楽のマジックってありますね。
――『樹影』の中の新しい曲では「ドバイ」っていうのもありますよね。
CK 脳内旅行の歌で、実際、ドバイに行きたいってそんなに思わないんですけどね(笑)なんかVRゴーグルつけて、煎餅布団でみたいな。ディズニーだったら魔法の絨毯なんだけど、こっちは魔法のおふとんで。これだったらタダじゃん、って。VRすら体験したことがないんで、VRすら妄想だという(笑)
VTM かつてのマーティン・デニーの音楽もいわばVRの祖先ですよね。ステレオ装置によって違う土地にいる錯覚をおこす擬似旅行。
CK 棕櫚の存在がまさにそれですよね。
VTM 擬似南国ですね。こんどの「ドバイ」もそうだし、同じく『樹影』に入ってる「ウェイホユ?」の、言葉の通じない相手への歌にしてもそうですけど、剣さんは「距離」を描く曲が多いですよね。場所の距離もあるし、「The Roots」みたいに時間の距離もあるし。その差の中から物語が生まれるというか。距離の中に挟まれたノイズを受信してるというか。『樹影』を聴いていて改めて、そんなことを考えました。
――イベントにはDJで長谷川陽平さんが参加されます。
VTM オルガン・バーでやってる「東西相會」というDJイベントのレギュラーとして何度もご一緒していて、今回、誰にDJをお願いしようかなと考えた時に思い浮かんだのが長谷川さんでした。ずっと韓国と日本と二拠点でやられてて、ちょうど8月にDJで日本に帰ってこられるということもあったので声をかけました。
――長谷川さんが書かれた名著「大韓ロック探訪記 (海を渡って、ギターを仕事にした男)」を読めば韓国ロックの渦の中でのジョン万次郎ばりの(笑)活躍もよくわかりますが、同時にシティポップの伝道師的な役割も果たしています。
VTM その「ふり幅」はまさしくCKB的でもありますね。CKBも韓国ロックの名曲「美人」やトロットの「無条件」など韓国語曲もカヴァーしていますし、昨年の和物カヴァーアルバム「好きなんだよ」もありますからね。長谷川さんのDJとの親和性は完璧だと思いました。当日は中華圏のレコードもかけてくれるって言っていました。
また、先の柳町光男さんの話に戻りますけど、彼の撮る映画の幅の広さもCKBに通じるものを感じます。
CK 高校のときに『ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR』(76年)観て衝撃受けて、そのあと『19歳の地図』(79年)観て。「エンペラー」の人(本間優二)が主役の。やっぱりなんか「滲み」がありましたね。香港ノアールとか、台湾映画に通じる。それで、『旅するパオジャンフー』(95年)観たら、全部入ってて、うわーって。
VTM 人はもちろんなんですけど、風景の撮り方というか、フォーカスの合わせ方がよくって。
CK 一見、意味がない風景なんだけど、自分の中ではそこにグッとくるっていうか。
VTM ただ稲穂が揺れてるシーンとかもすごいんですよね。風景が背景になっていないというか、ちょっとこわい。先日『旅するパオジャンフー』のDVDを剣さんからいただいて色々繋がったような気持ちになりました。偶然にも「南国電影」を作る時なんかは、Youtubeに上がっている『旅するパオジャンフー』の予告をエンジニアの人に見せて、声をこのカラオケマイクの感じの音にミックスしてください、って依頼してたんです。だからDVDをいただいた時はびっくりしました(笑)
――今日はどうもありがとうございました。VIDEOTAPEMUSIC、クレイジーケンバンド、長谷川陽平、棕櫚、さらにアシカというキーワードが加わった2020年8月27日のマジック、私も楽しみにしてます。
(2022年8月2日
ダブルジョイ・レコーズ事務所にて)
ライブ情報
2022.8.27(SAT)
東京都 よみうりランド遊園地内 らんらんホール
『KAKUBARHYTHM 20years special Vol.02 VIDEOTAPAMUSIC presents ‘’棕櫚‘’』
OPEN / START
13:15 / 14:00
TICKET
前売:6,000円
(中学生以上有料。大人1名につき小学生以下1名までライブ会場への入場無料、並びによみうりランドへの入園可能)
各プレイガイドにて販売中!
・チケットぴあ
・ローソンチケット・Lコード:70876
・e+
LIVE
VIDEOTAPEMUSIC / CRAZY KEN BAND
DJ
長谷川陽平
INFO
HOT STUFF:03-5720-9999